外見を若く保つという老化予防術【カイゴのゴカイ 14】

 

介護のゴカイ

外見を若く保つという老化予防術【カイゴのゴカイ 14】

男性ホルモンと意欲の関係

前回、今の時代は80歳までは年寄りと考えなくていいのではないかという提言をした。
現実には、80歳前に認知症になる人も、脳梗塞の後遺症や骨折の後遺症などで要介護状態になる人もいるので、そういう人は残念ながら、高齢者の扱いをしないといけないかもしれない。
いっぽうで吉永小百合さんのように78歳でも信じられないくらいの若さを保っておられる人もいる。
それ以上にすごいと思うのは、この10月で90歳になられた草笛光子さんだ。今でも現役の女優(この10月にアマゾンプライムで配信される映画に出演される)、タレントであると同時にファッションリーダーのようなことをやっている。
医学的にみると女性のほうが平均寿命が長いだけでなく、若々しい傾向がある。
以前に紹介したように、男性は歳を取るほど男性ホルモンが減って意欲が低下し、人付き合いも悪くなるのだが、女性は閉経後に男性ホルモンの絶対量が増えることがわかっている。
そのため、意欲も出てくるし、人付き合いも盛んになる。高齢者の団体旅行はたいがい女性だ。
そして、現在、日本で売れている雑誌というと、読者の方ならご存じかもしれないが、『ハルメク』という50代以上の女性向けの(70代の女性も多いらしい)総合ライフスタイル雑誌だ。50万部近くの部数を誇り、週刊文春より売れているというすごい雑誌だ。
毎月のようにファッションの特集をやる若さの象徴のような雑誌だが、先日お会いした編集長の方によると、一番人気の特集というとスマホの使い方だという。
ちなみに原稿を書いている時点での最新号では、巻頭インタビューは草笛光子さんだった。

老化予防は日常の外見から

さて、この号の表紙に「ほうれい線 顔たるみ 老け手 徹底解消!」とあり、顔だけでなく手の若返りについても日常習慣で若返ろうという大特集をやっている。
確かに、高齢の女優さんなどを見ていても、顔はボツリヌス毒素やヒアルロン酸などを入れてびっくりするほど若いのに、手はやはり老人ということがしばしばある。そこでうちのアンチエイジングのクリニックでは、手の甲にも血小板などを入れる治療をやっているのだが、その評判はいい。
やはりしわやほうれい線が消え、さらに手の甲のくぼみなどが取れれば、見た目は明らかに若返る。
ところが日本では外見の若返りには否定的な考えを持つ人はかなり多い。
脳トレで脳を若返らせることとか、運動をして身体や筋肉を若返らせることには、多くの人がかなり一生懸命なのに、ボツリヌス毒素を打って皺を伸ばすとか、植毛をして髪の薄いのを復活させるだとかが反則のようにいう人は珍しくない。男性の場合、カツラまで否定して「ヅラ疑惑」と言われたりする。
ホルモン補充治療は男性ホルモンであれば、筋肉がつきやすくなるし、女性ホルモンであれば肌艶がよくなり、骨もしっかりするので、意欲が出るだけでなく、外見も若返るが、これにも否定的な人は多い。
ただ、長年の老年精神科医としての経験を言うと、鏡に映る自分の姿が若返ると気持ちも若返るし、それによって意欲も出てくる。自分が若くなった気分を通じて、いろいろなことにチャレンジしたり、身体や脳を動かすようになれば、確実にその能力が保たれるし、さらに若返ることもある。
何より素晴らしいのは、外に出たい、人に会いたいという気分が増すことだ。
これも脳を若返らせるし、活動性を増すことにつながる。
外見の若返りにはいろいろなレベルがあるだろう。
いちばん簡単なのは、女性なら化粧だろうし、男性なら白髪染めだろう。
このレベルであればかなりの高齢になっても反則という人はまずいないし、むしろ応援されるだろう。
ただ、この効果は大きい。
たとえば、老人ホームなどで、メイクをしてくれる人を呼ぶイベントをやってきれいに化粧をしてあげると、見違えるように元気になる人は珍しくない。
歩き方までシャキッとしてくる。
やはり女性は化粧をするだけで心理が変わる。逆に、高齢者がうつ病などになって化粧を面倒がってしなくなると一気に老け込む。
少なくとも、日常の買い物でなく、ちょっとした街に出かけるときだけでも化粧をする習慣を維持することで、いろいろな老化を予防できると私は信じている。

脳の若返りとファッション

次の段階はファッションだろう。
『ハルメク』という雑誌は、基本的にはファッション誌だというつもりで作り手は出しているらしい。そして、それが受けて、それより若い年代向けのどのファッション誌より売れている。
この年代向けの雑誌は、健康雑誌という決めつけから脱して、見事に成功したのだ。
それだけファッションに関心のある60代、70代、場合によっては90代の人が多いということだ。
私自身、60を過ぎて痛感するが、スーツを着るとそれなりに若く見えるが、ジーンズにセーターという格好をするとなんだかおじん臭い。(これは若者と逆である)
シャネルのスーツだって、その年代にならないと似合わないと言われているし、実際、私もその印象をもっている。着物も逆に中高年以降のほうがずっと似合う。
そして、自己満足でもいいからカッコいいと思える服を着ていると若返り気分が味わえるし、やはり意欲も出てくる。
ここで、どのくらいの冒険ができるかも脳の若返りにかかわってくる
思い切って、着たことのないような派手なスタイルや派手な色を着てみるというのもあるだろう。これまでだって着たことのないものだ。
こんなの着たら笑われると思うかもしれないが、思ったより受けるかもしれないし、個性も出せる。みんなに実際にダメ出しをされたり、笑われたりしても一時の恥だ。やはり似合わなかったと素直にあきらめればいい。でも、もし「若返ったね」とか「意外に似合う」と言われたら素直に喜べばいいし、これからも似たような服にチャレンジを続けることで、自分の個性やアイデンティティを打ち出せる。これは歳を取ってからも可能だ。
思い切って髪を緑やゴールドに染めてもいいし、逆に真っ白にしてそれが決まるとカッコいいということもあるだろう。
人目を気にする自分から、注目される自分へのモデルチェンジができれば、精神的に満たされるし、何より意欲が増す。

老化予防が介護予防につながる

赤い色を見ると男性ホルモンの分泌が増えるという研究がある。
自分の赤い色の服から元気をもらえるし、女性が赤い色の服を着ると、相手の男性の男性ホルモンが増え、異性として注目されやすいのだ。
いろいろな意味で化粧やファッションは心を若返らせ、それが人間を意欲的にして、老化を遅らせることができる。それによって要介護状態になることを遅らせることができる。あるいは、要介護状態にある人が元気になる。
もっとハイレベルな若返りがプチ整形だ。
ボツリヌス毒素(商品名はボトックス、私は表情が作りやすいディスポートというものを気に入っている)の皮下注射で皺を伸ばすというのが一般的だ。
これは価格破壊も起こっていて、数万円でかなりの皺を消すことができる。
3~4か月もつことを考えると化粧品より安いかもしれない。
もちろん下手な医者にやられて顔がひきつることがあるかもしれないから一回目はごく少量でと頼んだ方がいいだろう。
ほかにもヒアルロン酸注入でほうれい線を消したり、顔をふっくらさせることもできる。私は多血小板血漿をほほや手の甲に入れてそこを若返らせる治療を行っていたが、これもかなり有効だった。
ふっくらした感じは若返りだけでなく、相手に安心感を与える顔になるようで気に入っている。
さらに進むと本格的な(といっても糸で顔面を吊り上げるくらいのレベルで、メスは使っても美容外科の鼻を高くしたり、顎を削ったりという手術と比べると安全で簡単なものが多いが)若返り美容外科ということになる。
これは確かに大掛かりなものになるし、費用も高いが見た目は確実に若返る。
ただ、この手の美容皮膚科や美容外科的な処置を今でも反則のように思う人は多い。
ただ、化粧やファッションと違って明らかに自分の容姿が変わってくるので、それを受け入れてしまうと、精神的な満足感も若返り効果も高い。
また若い人の美容外科と違って、自分が別の顔になるのでなく、若いころの顔に戻る感じになるので自分にとっての違和感が少ない。
高齢になるということは老化予防が介護予防につながるものだ。(もちろん容姿が若返っても転倒したり、脳梗塞を起こしたりすれば要介護状態に陥ってしまうが)
自分の偏見を捨て去って、まず外見から若返ってみることが、脳も身体も若返らせることにつながることは知っておいて損はない。

著者

和田 秀樹(わだ ひでき)

国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科医師を歴任。

著書に「80歳の壁(幻冬舎新書)」、「70歳が老化の分かれ道(詩想社新書)」、「うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ(講談社+α新書)(樋口恵子共著)」、「65歳からおとずれる 老人性うつの壁(毎日が発見)」など多数。

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