若年性認知症とは?症状・原因・なりやすい人の特徴から利用できる社会保障制度まで解説

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若年性認知症とは?症状・原因・なりやすい人の特徴から利用できる社会保障制度まで解説

「働き盛りの自分が、まさか認知症に…?」認知症は高齢者の病気というイメージが強いですが、実は65歳未満の現役世代でも発症することがあり、これを「若年性認知症」と呼びます。若年性認知症は、働き盛りや子育て世代を襲うため、ご本人のキャリアが絶たれてしまうだけでなく、ご家族の生活にも大きな経済的影響を及ぼすという、高齢者の認知症とは異なる深刻な問題を抱えています。また、ご本人も周囲も「疲れやストレスのせいだろう」と思い込み、診断が遅れがちになる傾向もあります。この記事では、若年性認知症の症状や原因、なりやすい人の特徴から、診断された場合に利用できる仕事や生活のサポート、経済的な支援制度までを網羅的に解説します。ご自身やご家族のために、正しい知識を身につけ、適切なサポートにつなげる第一歩としてお役立てください。

若年性認知症とは?65歳未満で発症する認知症

65歳未満で発症する認知症の総称

若年性認知症とは、18歳以上65歳未満で発症する認知症の総称です。厚生労働省が2020年に公表した調査によると、日本国内の若年性認知症の患者数は約3.57万人と推計されています。

発症年齢の平均は54.5歳と報告されており、まさに社会や家庭で中心的な役割を担う年代にあたります。そのため、病気の症状そのものに加えて、ご本人やご家族が直面する社会的・経済的な課題が非常に大きいのが特徴です。

高齢者の認知症との違い

若年性認知症は、発症年齢が若いという点以外にも、高齢者の認知症とは異なるいくつかの特徴があります。

原因疾患の割合が異なる
高齢者の認知症では「アルツハイマー型認知症」が最も多いのに対し、若年性認知症では脳梗塞や脳出血を原因とする「脳血管性認知症」が最多です。そのため、麻痺などの身体症状を伴うケースも少なくありません。
進行が早い傾向にある
原因となる疾患にもよりますが、若年性認知症は高齢者の認知症に比べて、症状の進行が早い傾向があるといわれています。特に、脳血管性の場合は脳卒中の再発によって段階的に、前頭側頭型の場合は急速に症状が進行することがあります。
診断が遅れやすい
ご本人も周囲も「認知症は高齢者の病気」という先入観から、物忘れや仕事のミスが増えても、「疲れやストレス、更年期障害のせいだ」と思い込みがちです。その結果、医療機関への受診が遅れ、診断時には症状がかなり進行しているケースが少なくありません。
経済的な影響が大きい
発症するのが働き盛りの世代であるため、多くの場合、ご本人が家計の主たる担い手です。認知症の症状によって仕事の継続が困難になり、休職や退職を余儀なくされると、収入が大幅に減少したり、住宅ローンの返済が困難になったりするなど、ご家族の生活基盤そのものが揺らぐ事態につながりかねません。

もしかして?自分でできる若年性認知症のチェックリスト

「最近、物忘れがひどい」「仕事の段取りが悪くなった」など、気になる変化はありませんか?以下のチェックリストは、若年性認知症の早期発見の「気づき」のきっかけとなるものです。いくつか当てはまる場合は、一人で悩まず専門機関に相談してみましょう。

※これは医学的な診断に代わるものではありません。

仕事や家事での変化

  • 仕事や家事で、これまで難なくできていたミスが増えた
  • 計画を立てたり、段取りを考えたりすることが苦手になった
  • 家電製品やパソコンの操作がうまくできなくなった
  • 同じことを何度も言ったり、聞いたりする
  • 料理のレパートリーが減り、同じものばかり作るようになった

記憶や言葉に関する変化

  • 物の名前や人の名前が、すぐに出てこなくなった
  • 会話の途中で、何を話していたか分からなくなることがある
  • 物の置き忘れや、しまい忘れが増えた
  • 約束や予定をすっぽかしてしまうことがあった
  • 本や新聞を読んでも、内容が頭に入ってこない

性格や行動の変化

  • ささいなことで怒りっぽくなった、または涙もろくなった
  • 以前より頑固になり、人の意見を聞き入れなくなった
  • 趣味や好きだったことへの興味や関心が薄れた
  • 身だしなみに気を遣わなくなり、だらしなくなった
  • 車の運転が荒っぽくなったり、よく道を間違えたりするようになった

若年性認知症の主な原因となる疾患

若年性認知症は、様々な病気によって引き起こされます。高齢者の認知症ではアルツハイマー型が最も多いのに対し、若年性認知症では原因となる疾患の順位と割合が異なります。

原因疾患 割合 主な特徴
1. 脳血管性認知症 39.8% 脳梗塞や脳出血が原因。男性に多く、麻痺などを伴うことがある。
2. アルツハイマー型認知症 25.4% 脳に異常なたんぱく質が溜まる。記憶障害から始まることが多い。
3. 前頭側頭型認知症 12.5% 人格変化や社会性の欠如(万引きなど)が特徴的に現れる。
4. レビー小体型認知症 4.3% リアルな幻視やパーキンソン症状(手の震えなど)が見られる。
5. アルコール性認知症 3.5% 長期間の多量飲酒が原因。作話(作り話)が見られることがある。

第1位:脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血といった脳の血管の病気によって神経細胞が壊れ、発症します。若年性認知症の原因としては最も高い割合を占めています。「まだら認知症」とも呼ばれ、記憶力は保たれていても他の機能が低下するなど、症状の現れ方に特徴があります。

第2位:アルツハイマー型認知症

「アミロイドβ」などの特殊なたんぱく質が脳に蓄積し、神経細胞が破壊されることで発症します。物忘れなどの記憶障害から始まることが多いのが特徴です。

第3位:前頭側頭型認知症

人格や社会性、言語を司る前頭葉や側頭葉が萎縮することで起こります。記憶は比較的保たれているにもかかわらず、感情の抑制がきかなくなったり、社会のルールを無視した行動をとったりするようになります。

第4位:レビー小体型認知症

「レビー小体」という異常なたんぱく質が脳に現れることで発症します。リアルな幻視(例:「部屋に人がいる」)や、パーキンソン病に似た症状(手の震え、小刻み歩行など)が特徴です。

第5位:アルコール性認知症

長年にわたるアルコールの大量摂取によって脳が萎縮し、認知機能が低下します。早期に断酒し、適切な治療と栄養指導を行えば、症状が改善する可能性があります。

若年性認知症の主な症状

若年性認知症の症状は、物忘れなどの「中核症状」と、それに伴って現れる行動・心理面の「行動・心理症状(BPSD)」に大別されます。

記憶障害や判断力の低下などの「中核症状」

中核症状は、脳の神経細胞が壊れることで直接引き起こされる症状です。

記憶障害
新しい出来事を記憶できなくなります。特に、アルツハイマー型が原因の場合、体験したことそのものを忘れてしまうのが特徴です。
見当識障害
時間、場所、人物などが分からなくなります。今日の日付が分からなくなったり、季節に合わない服装をしたり、慣れた場所で道に迷ったりします。
理解力・判断力の低下
物事の理解に時間がかかったり、状況に応じた適切な判断ができなくなったりします。ATMの操作ができない、信号の意味が分からないといったことが起こります。
実行機能障害
計画を立てて、段取り良く物事を進めることができなくなります。料理や買い物、仕事の手順などが分からなくなります。若年性認知症では、記憶障害よりも先にこの症状が目立つことがあります。

不安やうつ状態などの「行動・心理症状(BPSD)」

BPSDは、中核症状に本人の性格や環境、人間関係などが影響して現れる二次的な症状です。

うつ・無気力
認知機能の低下により、今までできていたことができなくなることで自信を失い、抑うつ状態になったり、何事にも興味を失って無気力(アパシー)になったりします。
不安・焦燥
記憶障害などから、自分が置かれている状況が分からなくなり、強い不安や焦りを感じます。その結果、落ち着きがなくなったり、イライラしやすくなったりします。
妄想
特に「物盗られ妄想」が代表的です。財布などをしまった場所を忘れ、「家族に盗られた」などと思い込んでしまいます。
徘徊
見当識障害により、自分がどこにいるのか分からなくなり、目的もなく歩き回ってしまう行動です。ご本人は何かを探していたり、家に帰ろうとしていたりする場合が多いです。

若年性認知症の診断と治療法

早期発見・早期診断が進行を遅らせる鍵

若年性認知症は診断が遅れやすい傾向にありますが、早期に診断を受け、適切な治療やサポートを開始することで、病気の進行を遅らせ、穏やかな生活を長く続けることが可能になります。気になる症状があれば、ためらわずに専門機関に相談することが重要です。

何科を受診すべき?主な相談先

「認知症かもしれない」と思ったら、以下の専門機関に相談しましょう。

相談先 特徴
もの忘れ外来・認知症外来 認知症を専門に診断・治療する。原因疾患の特定から治療、生活上のアドバイスまで総合的に相談できる。
神経内科・脳神経外科 脳の病気を専門とする。特に、頭痛やめまい、麻痺などの症状がある場合に適している。
精神科・心療内科 うつや不安、妄想といった精神的な症状が強い場合に相談できる。
若年性認知症支援コーディネーター 各都道府県・指定都市に配置されており、医療・福祉・就労などに関する様々な相談にワンストップで対応してくれる。

診断の流れと検査内容

診断は、問診、神経心理学検査、脳画像検査などを組み合わせて総合的に行われます。

問診
ご本人やご家族から、症状や生活状況、既往歴などを詳しく聞き取ります。
神経心理学検査
長谷川式認知症スケールやMMSEなどを用いて、記憶力や判断力といった認知機能を客観的に評価します。
脳画像検査
CTやMRI、SPECT検査などで脳の萎縮や血流の状態を調べ、原因疾患を特定します。

薬物療法と非薬物療法(リハビリテーション)

治療は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。根本的な治療法はまだ確立されていませんが、進行を遅らせ、症状を緩和させることが目的です。

薬物療法
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の進行を緩やかにする薬や、BPSD(行動・心理症状)を緩和させる薬などが用いられます。
非薬物療法
運動療法や作業療法、音楽療法などのリハビリテーションを通して、残された機能の維持・向上を目指し、生活の質(QOL)を高めます。

若年性認知症と診断されたら|仕事や生活で利用できるサポート

若年性認知症と診断されても、すぐに社会とのつながりが絶たれるわけではありません。様々な社会保障制度やサポートを活用し、自分らしい生活を続けることが可能です。

まずは職場へ相談し働き方を調整

診断されたら、まずは信頼できる上司や人事担当者に相談しましょう。病気のことを正しく理解してもらい、時短勤務や部署異動、業務内容の変更など、無理なく働き続けられる方法を一緒に考えてもらうことが大切です。事業主には、障害者雇用促進法に基づく合理的配慮の提供義務があります。

経済的な負担を支える社会保障制度

収入の減少や医療費の負担を支えるため、以下のような公的な経済支援制度があります。

障害年金
病気やけがによって生活や仕事などが制限される場合に受け取れる年金です。若年性認知症も対象となり、障害の程度に応じて「障害基礎年金」や「障害厚生年金」が支給されます。
精神障害者保健福祉手帳
精神疾患のある方が、様々な福祉サービスを受けやすくするための手帳です。税金の控除や公共料金の割引などの優遇措置が受けられます。
自立支援医療(精神通院医療)
認知症の通院治療にかかる医療費の自己負担を、原則1割に軽減できる制度です(所得に応じて上限額あり)。
傷病手当金
健康保険の被保険者が病気やけがで会社を休み、給与が支払われない場合に、最長1年6ヶ月間、給与のおおむね3分の2が支給されます。

40歳から利用できる介護保険サービス

若年性認知症の原因となる疾患の多くは、介護保険の「特定疾病」に指定されています。そのため、40歳から64歳までの方(第2号被保険者)でも、要介護認定を受ければ、デイサービスや訪問介護といった介護保険サービスを利用できます。

運転免許証の取り扱い

認知症と診断された場合、安全運転に支障をきたす恐れがあるため、運転免許は取り消しまたは停止となる可能性があります。医師の診断に基づき、公安委員会が臨時適性検査を実施します。ご本人の安全のためにも、運転を控えるようにしましょう。運転経歴証明書が発行される「運転免許の自主返納」も検討しましょう。

ご家族ができるサポートと心構え

ご家族のサポートは、ご本人が安心して療養生活を送る上で不可欠です。しかし、ご家族だけで抱え込まないことも同じくらい重要です。

本人の気持ちを理解し尊厳を守る

若年性認知症の方は、ご自身が病気であることを理解していることが多く、将来への不安や、できなくなったことへの焦り、家族への申し訳なさなどを抱えています。その辛い気持ちに寄り添い、一人の人間として尊厳を守る接し方を心がけましょう。

できることや役割を奪わない

失敗を恐れて、何でも先回りして手伝ってしまうと、ご本人の残された能力や自信、そして役割まで奪うことになりかねません。安全に配慮しながら、できることは本人に任せ、社会や家庭での役割を維持できるようにサポートすることが大切です。

一人で抱え込まず専門家や支援団体に相談

介護の悩みや不安を、家族だけで抱え込む必要はありません。前述の若年性認知症支援コーディネーターや地域包括支援センター、保健所、かかりつけ医、そして同じ悩みを持つ仲間が集う「若年性認知症の本人・家族会」など、相談できる場所はたくさんあります。

家族自身の休息も大切に

介護は長期戦です。介護するご家族が心身ともに健康でなければ、良い介護は続けられません。デイサービスやショートステイなどを利用して、介護から離れる時間(レスパイト)を意識的に作り、ご自身の心と体を休めることも忘れないでください。

若年性認知症の予防のために今日からできること

若年性認知症の半数以上は、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が占めています。これらの認知症は、生活習慣と深く関わっていることが分かっています。

生活習慣病の予防と管理

高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は、動脈硬化を進め、脳血管性認知症の最大のリスクとなります。定期的に健康診断を受け、生活習慣病の予防と適切な治療を続けることが、認知症予防の第一歩です。

バランスの取れた食事と適度な運動

塩分や脂肪分を控えたバランスの良い食事、特に野菜や魚を中心とした食生活を心がけましょう。また、ウォーキングなどの有酸素運動を習慣にすることで、血行が良くなり、脳の活性化にもつながります。

社会的なつながりと知的活動の継続

仕事をリタイアした後も、趣味のサークルや地域のボランティア活動などに参加し、社会とのつながりを持ち続けることが大切です。また、読書や囲碁、楽器の演奏など、頭を使う活動を楽しみながら続けることも、脳の良い刺激となります。

若年性認知症のお悩みは「笑がおで介護紹介センター」にご相談を

介護の専門家が無料でご相談に対応

「診断されたけれど、これからどうすればいいか分からない」「利用できるサービスについて詳しく知りたい」など、若年性認知症に関するあらゆるお悩みや不安に、介護の専門家が無料でご相談に応じます。

ご本人やご家族に合った介護サービスや施設をご提案

若年性認知症の方の状態やご家族の状況に合わせて、利用できる介護保険サービスや、関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀、三重)の受け入れ可能な施設をご提案いたします。

まずはお気軽にお問い合わせください

ご本人、ご家族だけで抱え込まず、まずは私たち「笑がおで介護紹介センター」にお気軽にお電話やメールでご相談ください。一緒に最適な解決策を見つけていきましょう。

監修者

花尾 奏一(はなお そういち)

保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士

有料老人ホームにて介護主任を10年 
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施

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