【和田秀樹コラム】ヤング民主主義の脅威|「80歳の壁」著者が語る「介護の誤解」vol.42

「シルバー民主主義」という言葉の虚実
前回、高齢者に元気になってもらうためにスウェーデンを見習うべきと提言したが、今回の選挙結果を見て、それは遠くなった気がする 。 シルバー民主主義という言葉がある 。 小学館の『デジタル大辞泉』によると、「少子高齢化の進行に伴って、有権者人口に占める高齢者(シルバー世代)の割合が増加し、高齢者層の政治的影響力が高まること」と定義されるそうだ 。 八代尚宏さんという経済学者が『シルバー民主主義 - 高齢者優遇をどう克服するか』 (中公新書)という本を出したのが、2016年のことだから、10年以上使われている言葉だ 。
確かに様々な高齢者福祉を削ると票が逃げるということで、年金も十分で、子どもの教育費などもかからず、さらに家のローンも終わっているような可処分所得の多い高齢者まで、さまざまな優遇を受け、その原資が税金であることには、高齢者の味方を自認する私でも納得はいかない 。 その分、高齢者がお金を使ってくれれば、日本の景気もよくなるのだろうが、むしろ子どもの相続財産を殖やすために税金を使っているという結果にしかなっていないのだから 。
待機児童と特養待機者の「不都合な格差」
さて、この『デジタル大辞泉』では、このように続けられている 。 「若年層や中年層の意見が政治に反映されにくく、高齢者向けの施策が優先されがちになるといった弊害が指摘されている」 。 私には、とてもそう思えない 。 たしかに様々なシルバーパス、敬老パスなどの施策が打ち出されてきたが、それは高齢者がそんなに多くなくて、財政が比較的豊かだった70年代から始まったものが多い 。 高齢者が増えたから、票目当てで始まったものはほとんどないだろう 。
保育園が足りないために就労ができないということで、保育園の待機児童数が問題になって久しいが、こども家庭庁の資料によると保育園の待機児童数は平成29年に26000人以上いたのが、令和7年には2254人まで激減している 。 確かに少子化の影響もあるが、保育園やこども園などの保育施設の定員もこの間に7000人は増えている 。 それに比べて、所得が低いのに(ある程度の収入があれば、介護つき有料老人ホームは価格が良心的なことが多い)親の介護のために就労できない特別養護老人ホームの待機者は今でも(2025年4月現在)22.5万人もいる 。 私は高齢者専門の精神科医をやっているが、現場感覚では、これはもっと多い 。
というのは、特別養護老人ホームは要介護3以上しか申し込めないが、認知症で徘徊して家族の目が離せない状態でも、歩けるとなかなか要介護3がつかないし、介護保険の利用者が増えるにつれ、審査が厳しくなり、それも要介護3がつくのを困難にしているからだ 。 要するに、本当は特別養護老人ホームが必要なのに、要介護3の審査を受けられないから申し込みさえできない人が大量にいるのだ 。 おそらく40万人くらいの人が、介護のために、仕事を諦めなければいけなくなったり、不本意な非正規雇用を選ぶことになっているだろう 。 保育園の待機児童数が2200人くらいだと考えると大きな差だ 。 特養の待機で仕事が困難になっている人は中高年が多いが、保育園の待機児童の親は20代、30代が多い 。 要するに若者が優遇されているのだ 。
免許返納にみる「若者への甘さと高齢者への厳しさ」
高齢者の事故が問題にされているが、統計上は85歳以上の人より、24歳までの人の事故の方が多い 。 75~79歳の人より、25~29歳のほうが多い 。 75歳になったら免許を返納しろというのなら、免許の取得年齢を18歳から30歳に引き上げないといけないことになるが、若者の危険はまったく論じられない 。 筑波大学の調査では高齢者が免許を返納すると6年後に要介護状態になる確率は2.2倍にもなってしまう 。 若い人が免許を取れなくても、就労が困難になるかもしれないが、足腰はかえって丈夫になるだろう 。 少なくとも、現在の政府が若者に甘く、高齢者に厳しいとはとても思えない 。 そういう意味で、シルバー民主主義というのは、明らかな嘘だと私は考えている 。
加速する「ヤング民主主義」の潮流
そして、今回の選挙結果は、ヤング民主主義というべき現状をさらに加速する危険を感じている 。 高市ブームは若者の心をガッチリつかんだという分析をされることが多い 。 そして若者の心をつかむとSNSの視聴回数が増え、ほかの世代の票も伸びる 。 選挙演説をするにしても、若者に人気があると人が集まりやすく、ブームが演出しやすい 。 今回の選挙で自民党以外で唯一大幅に議席を伸ばしたチームみらいも若者人気の政党だ 。 私が作った幸齢党が高齢者を元気にする政策をいくら打ち出しても、全然サポーターが増えないのと対照的だ 。
実際、立憲民主党と公明党が合同した中道改革連合が惨敗したわけだが、野合という批判だけでなく、二人の党首がおじんくさいというのが、いろいろと叩かれている 。 政策がわかりにくいというが、高市自民党のほうがよほど具体策がなかったが、若々しさと力強さで票を集めた 。 実は、この中道改革連合は、高齢者にとってはありがたい具体的政策を掲げていた 。 それが定年制の廃止だ 。 能力があるのに、職場を追い出され、その後、仮に仕事にありつけたとしても不慣れで、不安定で、低賃金の仕事にしかつけない 。 こんな高齢者差別の慣行はさっさとやめるべきと思っていたら、この政党が公約にした 。 ところがその公約を打ち出した政党が惨敗したのだから、この年齢差別の慣行は続くだろう 。
高齢者差別の現状と自縄自縛の選挙結果
我々、幸齢党はすべての先進国で採択されている年齢差別禁止法を打ち出しているが、これも票にならないのだろう 。 要するに若い世代はきちんと要求するが、高齢者はされるがままに差別を受け、選挙という改善の手段を使わないから、実際には選挙に影響力をもたない 。 世界でも例のない形で高齢者から免許を取り上げ、やはり世界でも例のない形で高齢者を薬漬けにして、しかもこの無駄金のために、現役世代から引かれる健康保険料が増えて、現役世代や若者から恨みを買う 。 このような現状を作った自民党に票を入れるのだから、自分で自分の首をしめるとしか言いようがない 。
とにかく、マスコミまで尻馬に乗って自民党のやり方がよくて、野党がダメという大合唱をするから、高市自民党の支持率はむしろ上がっている 。 さらにタチの悪いことに、自民党に勝たせすぎたために、これから4年間選挙がない 。 つまり、この高齢者差別の現状が4年続く 。 それ以上に心配なのは、その4年後も、若者票をつかむと勝てると考えた各政党が、さらに若者に媚びた公約を出してくることだ 。 あるいは、イメージ戦略としても若者受けを狙うだろう 。 今回のことに懲りて、高齢者のことを考えたと世間に思われるような政策を打ち出す政党が(我々、幸齢党を除いては)現われるとは思えない 。
民間から始める「日本復活」への道
高齢化が進むのに若者目線が正しい、受けがいいと考えるのは、政治の世界に限らない 。 前述のように、十分な年金(厚生年金+企業年金)をもらい、教育費などもかからず、家のローンを終えた豊かな高齢者が、かなりの数でいるのに、高齢者向けの商品やサービスがほとんど提供されない 。 高齢者から金儲けをしているのは、まともな企業家でなく、詐欺師や犯罪者というのが現実だ 。 若者はテレビを見ずに、動画サイトなどを見ることが増えているのに、相変わらず、テレビ局は若者迎合の番組ばかり作り、高齢者向けの番組を作ろうとしない 。
今の日本は円安と実質賃金が上がらないことで貧乏な国になったが、いっぽうで、世界でいちばん高齢者が多いだけでなく、前述のように可処分所得の多い高齢者がこんなに多く、昔の受験競争の厳しさから、こんなに平均的な高齢者の知的レベルが高い国は世界中どこを探してもない 。 高齢者向けの商品やエンターテインメントの開発がいちばんやり易い国なのだ 。 選挙結果というのは、国を変える 。 私は、この結果で変わった国がよくなるように思えない 。 政治がダメなら、民間が頑張るしかない 。 高齢者を元気にする起業やそれを応援する高齢者の力で、高齢者が元気になるしか日本復活の道はないと考えるがどうだろうか?
この記事の関連記事

0120-177-250

