高齢者の大腿骨骨折|原因・症状から手術・リハビリ・予防法まで解説

高齢者の方が転倒した際に起こりやすい「大腿骨骨折(だいたいこつこっせつ)」。太ももの付け根の骨が折れてしまうこの骨折は、激しい痛みを伴い、歩行が困難になることから、多くのケースで「寝たきり」や「要介護状態」の直接的な原因となっています。なぜ高齢者、特に女性に大腿骨骨折が多いのでしょうか。その背景には、加齢とともに骨がもろくなる「骨粗しょう症(こつそしょうしょう)」が深く関係しています。この記事では、高齢者の生活に大きな影響を与える大腿骨骨折について、その原因や症状、骨折の種類から、手術、リハビリといった治療の流れ、そして骨折後の生活や予防法まで、網羅的に解説します。ご自身やご家族の健康を守り、いきいきとした毎日を過ごすための一助となれば幸いです。
高齢者の生活を一変させる大腿骨骨折とは
大腿骨は体の中で最も太い骨
大腿骨は、人間の体の中で最も太く、体重を支える重要な骨です。この骨の、特に股関節に近い部分が折れてしまうのが「大腿骨骨折」です。高齢者の場合、この骨折がきっかけで生活が一変してしまうケースが少なくありません。
大腿骨骨折が「寝たきり」や「要介護」のきっかけになる理由
長期間動けない状態が心身に影響
大腿骨を骨折すると、強い痛みから立つことも歩くこともできなくなります。治療には手術が必要となることがほとんどで、入院期間も長くなりがちです。
この「長期間動けない」状態が、高齢者にとっては大きなリスクとなります。身体を動かさないことで、全身の筋力が急速に衰え、関節が固まってしまう「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」に陥りやすくなるのです。
さらに、活動量が減ることで食欲が低下したり、認知機能が低下したりと、心身にさまざまな悪影響が連鎖的に起こります。その結果、手術が無事に成功しても、骨折前の身体機能や歩行能力を取り戻すことが難しくなり、車椅子生活や寝たきり状態になってしまうことがあります。
「骨折・転倒」は要介護の主な原因の第3位
実際に、厚生労働省の調査でも、「骨折・転倒」は高齢者が要介護状態になる原因の上位を占めています。
| 順位 | 原因 | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 認知症 | 16.6% |
| 2位 | 脳血管疾患(脳卒中) | 16.1% |
| 3位 | 骨折・転倒 | 13.9% |
| 4位 | 高齢による衰弱 | 12.0% |
| 5位 | 心疾患(心臓病) | 4.7% |
※出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」より作成
このように、たった一度の骨折が、自立した生活を奪い、介護を必要とする状態へとつながる重大なきっかけとなり得るのです。
高齢者、特に女性に骨折が多い原因は骨粗しょう症
高齢になると誰でも骨が弱くなりますが、なぜ特に大腿骨骨折が多いのでしょうか。その最大の要因が「骨粗しょう症」です。
骨粗しょう症(こつそしょうしょう)とは
骨の量が減って密度が低くなり、骨がもろくなる病気です。骨の強度が低下するため、わずかな衝撃でも骨折しやすくなります。
骨粗しょう症は加齢とともに進行しますが、特に閉経後の女性に多く見られます。これは、骨の形成を助ける女性ホルモン「エストロゲン」が、閉経を境に急激に減少するためです。骨がもろくなった状態では、くしゃみをしたり、椅子から立ち上がったりといった日常のささいな動作でも骨折してしまうことがあります。
つまり、「骨粗しょう症」という基盤があるために、高齢者は軽い転倒でも大腿骨のような太い骨を折ってしまうリスクが非常に高くなるのです。
大腿骨骨折の主な種類と症状
ほとんどは脚の付け根で折れる「大腿骨近位部骨折」
高齢者の大腿骨骨折は、折れる場所によって大きく2つの種類に分けられます。どちらも太ももの付け根(股関節)周辺で起こる骨折で、これらを総称して「大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)」と呼びます。高齢者が転倒などによって起こす大腿骨骨折の9割以上は、この「大腿骨近位部骨折」です。
これは、股関節を構成する骨頭(こっとう)に近い部分で折れるもので、さらに以下の2種類に分類されます。
股関節の中で折れる「大腿骨頚部骨折」
大腿骨の先端にあるボール状の骨頭の、すぐ下にある細くなった部分(頚部:けいぶ)で骨折するタイプです。
特徴
関節を包む膜(関節包:かんせつほう)の内側で骨折するため、骨に栄養を送る血管が損傷しやすく、血流が悪くなります。そのため、骨が付きにくい「偽関節(ぎかんせつ)」や、骨頭が壊死(えし)してしまう「大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)」を起こすリスクが高いという特徴があります。
股関節の外側で折れる「大腿骨転子部骨折」
大腿骨頚部よりもさらに外側にある、骨が出っ張った部分(転子部:てんしぶ)で骨折するタイプです。
特徴
関節包の外側で骨折するため、血流が豊富で骨は比較的付きやすいとされています。しかし、骨折した部分からの出血量が多くなりやすく、高齢者の場合は貧血や全身状態の悪化につながることもあります。また、骨が粉砕されやすい場所でもあります。
骨折を見分けるための主な症状
大腿骨近位部骨折が疑われる場合、以下のような症状が現れます。もしご家族が転倒後にこのような状態になったら、すぐに救急車を呼ぶか、医療機関を受診してください。
激しい痛み
太ももの付け根(股関節)に激しい痛みがあり、立つことも歩くこともできなくなります。
脚の変形
骨折した側の脚が、健康な側と比べて短くなったように見えます。また、つま先が外側を向いてしまうのも特徴的な症状です。
腫れや皮下出血
股関節の周辺が腫れたり、紫色に内出血したりすることがあります。特に転子部骨折ではこの症状が顕著に現れます。
脚を動かせない
痛みのため、自分で脚を持ち上げたり動かしたりすることができなくなります。
大腿骨骨折の原因
最大の原因は家庭内での「転倒」
高齢者の大腿骨骨折は、どのような状況で起きてしまうのでしょうか。その原因は、大きく分けて「転倒」という直接的なきっかけと、「骨粗しょう症」という身体的な要因の2つが深く関わっています。
大腿骨骨折の最も多い原因は「転倒」です。若い人であれば少し尻もちをついた程度では骨折に至りませんが、骨がもろくなった高齢者の場合は、ささいな転倒が大きな怪我につながります。
驚くべきことに、転倒が起こる場所は、危険な屋外よりも「自宅内」が圧倒的に多いとされています。住み慣れたはずの自宅にも転倒のリスクは数多く潜んでおり、加齢による筋力や視力、バランス感覚の低下が、これらのリスクをさらに高めてしまいます。
居間・リビング
敷居やカーペットの縁、電気コードなどに足を取られてつまずく。
寝室
ベッドから起き上がった際や、夜中にトイレに行く際にふらついて転倒する。
階段
足を踏み外す、スリッパが脱げるなどして転落する。
浴室・脱衣所
濡れた床で滑る、浴槽をまたぐ際にバランスを崩す。
廊下
わずかな段差や、床に置かれた新聞紙などでつまずく。
背景にある「骨粗しょう症」との深い関係
前述の通り、大腿骨骨折の背景には、ほぼ必ずと言っていいほど「骨粗しょう症」の存在があります。骨がもろくなっているため、健常者なら打撲で済むような軽い衝撃でも、骨折してしまうのです。
骨粗しょう症は自覚症状がないまま進行することが多く、「サイレント・ディジーズ(静かなる病気)」とも呼ばれます。定期的な骨密度検査を受け、早期に発見・治療することが、骨折予防の重要な鍵となります。
大腿骨骨折の治療の流れ|検査・手術・リハビリ
診断からリハビリまでの一般的な流れ
大腿骨骨折と診断された場合、どのような流れで治療が進むのでしょうか。一般的には「診断」→「手術」→「リハビリテーション」というステップで、できるだけ早く元の生活に近づけることを目指します。
転倒などにより医療機関に救急搬送されると、まずは問診と身体の診察が行われます。その後、骨折の有無や状態を正確に確認するために、画像検査が実施されます。
レントゲン(X線)検査
骨折の診断で最も基本となる検査です。骨折の場所や骨のずれ(転位)の程度などを確認します。
CT検査
レントゲンだけでは分かりにくい複雑な骨折や、骨の状態をより詳しく立体的に把握するために行われることがあります。
MRI検査
レントゲンでは判別が難しい、骨のずれがほとんどない骨折(不全骨折)などを診断するのに有効です。
早期離床を目指す手術療法が基本
高齢者の大腿骨骨折では、原則として手術による治療が行われます。
ギプスなどで固定して骨が付くのを待つ「保存療法」では、長期間ベッドの上で安静にする必要があり、その間に筋力低下や認知症、床ずれ、肺炎といった合併症を引き起こすリスクが非常に高くなります。
これらの合併症を防ぎ、一日でも早くベッドから離れてリハビリを開始するため(早期離床)、手術によって骨を安定させることが最も重要と考えられています。手術は通常、受傷後48時間以内に行われることが推奨されています。
手術の方法は、骨折の種類によって主に以下の2つに分けられます。
人工関節に置き換える「人工骨頭置換術」
主に、骨が付きにくい大腿骨頚部骨折に対して行われる手術です。骨折した部分の骨頭を切除し、金属やセラミックでできた人工の骨頭に置き換えます。
この手術のメリットは、手術後すぐに体重をかけることができ、早期からリハビリを開始できる点です。ただし、人工関節には耐用年数があることや、脱臼のリスクがあるといった注意点もあります。
ボルトなどで骨を固定する「骨接合術」
主に、骨が付きやすい大腿骨転子部骨折に対して行われます。折れた骨を元の位置に戻し、金属製のプレートやスクリュー、釘(髄内釘:ずいないてい)などを使って内側から固定する手術です。
自分の骨を温存できる点がメリットですが、骨がつくまでには時間がかかるため、体重をかけられるようになる時期は骨折の状態によって異なります。また、固定した金属がずれたり、骨を突き破ったりするリスクもゼロではありません。
機能回復を左右するリハビリテーション
大腿骨骨折の治療において、手術と同じくらい重要なのがリハビリテーションです。手術で骨を安定させた後、できるだけ早くリハビリを開始し、身体機能の低下を防ぎます。
リハビリは、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などの専門スタッフが、ご本人の状態に合わせて計画を立てて進めます。
| 時期 | 主な目的 | リハビリ内容の例 |
|---|---|---|
| 急性期 (手術直後~) |
・合併症の予防 ・関節が硬くなるのを防ぐ ・筋力低下を最小限にする |
・ベッドの上での関節運動 ・車椅子への移乗訓練 ・座位(座る)訓練 |
| 回復期 (状態安定後~) |
・歩行能力の再獲得 ・ADL(日常生活動作)の向上 |
・平行棒内での歩行訓練 ・杖や歩行器を使った歩行訓練 ・筋力増強訓練 ・食事、着替え、トイレなどの動作訓練 |
| 維持期(生活期) (退院後) |
・身体機能の維持・向上 ・社会復帰、在宅生活の継続 |
・自宅や通所リハビリでの運動 ・地域の介護予防教室への参加 ・福祉用具や住宅改修の活用 |
リハビリは決して楽なものではありませんが、再び歩けるようになるため、そして元の生活に近づくためには不可欠です。ご本人の「また歩きたい」という意欲と、ご家族や医療スタッフのサポートが大きな力となります。
大腿骨骨折後の生活への影響
ADL(日常生活動作)の低下と要介護認定
無事に手術とリハビリを終えて退院した後も、大腿骨骨折は高齢者のその後の生活にさまざまな影響を及ぼします。骨折前の生活に完全に戻れる方は、決して多くないのが現状です。
大腿骨骨折後の最も大きな影響は、ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)の低下です。
ADL(日常生活動作)とは
食事、着替え、移動、排泄、入浴など、日常生活を送る上で不可欠な基本的な動作のことを指します。
骨折によって歩行能力が低下すると、これまで一人でできていたトイレや入浴、買い物などが困難になり、誰かの手助けが必要になることがあります。
このような状態になった場合、介護保険サービスを利用するために「要介護認定」の申請を行うことになります。入院中に病院のソーシャルワーカーなどに相談し、退院後の生活を見据えて申請手続きを進めるのが一般的です。認定結果(要支援1・2、要介護1~5)に応じて、ヘルパーの利用や福祉用具のレンタル、デイサービスへの通所といったサービスが利用可能になります。
その後の生活の質に関わる生命予後と機能予後
大腿骨骨折は、その後の「予後(よご)」にも影響を与えます。予後とは、病気や怪我の経過についての医学的な見通しのことです。
生命予後(せいめいよご)
「あとどのくらい生きられるか」という、寿命に関する見通しのことです。大腿骨骨折そのものが直接の死因になることは稀ですが、骨折をきっかけとした活動性の低下は、肺炎や心不全、血栓症などの合併症を引き起こしやすく、結果的に生命予後を縮めてしまう一因となると言われています。
機能予後(きのうよご)
「身体の機能がどの程度回復するか」という見通しのことです。特に大腿骨骨折の場合は、歩行能力がどのくらい回復するかが焦点となります。研究データによれば、骨折前の歩行能力を完全に回復できる人は約半数程度とも言われており、多くの人が何らかの杖や歩行器、車椅子などを必要とするようになります。
機能予後は、ご本人の元々の体力や認知機能の状態、リハビリへの意欲、そしてご家族のサポート体制など、さまざまな要因に左右されます。
要介護や寝たきりを防ぐための大腿骨骨折の予防法
「骨粗しょう症」と「転倒」の2大要因への対策
これまで見てきたように、大腿骨骨折は高齢者の生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。だからこそ、最も大切なのは「骨折しないこと=予防」です。
予防のポイントは、骨折の2大原因である「骨粗しょう症」と「転倒」の両方にアプローチすることです。
骨を強くする食生活のポイント
骨の健康を保つためには、バランスの取れた食事が基本です。特に、骨の材料となる栄養素を意識して摂取することが大切です。
| 栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食品 |
|---|---|---|
| カルシウム | 骨の主成分となるミネラル | 牛乳、乳製品、小魚、豆腐、小松菜など |
| ビタミンD | 腸でのカルシウムの吸収を助ける | 鮭、さんま、いわしなどの魚類、きのこ類、卵黄など |
| ビタミンK | カルシウムが骨に沈着するのを助ける | 納豆、ほうれん草、ブロッコリーなどの緑黄色野菜 |
| たんぱく質 | 骨の土台となるコラーゲンの材料 | 肉、魚、卵、大豆製品など |
これらの栄養素を日々の食事にバランス良く取り入れましょう。また、日光浴をすることで、体内でビタミンDが生成されます。1日に15分程度、散歩などで日光を浴びる習慣もおすすめです。
筋力とバランス感覚を養うための運動
転倒しにくい身体を作るためには、足腰の筋力とバランス感覚を維持・向上させることが不可欠です。無理のない範囲で、継続的に運動する習慣をつけましょう。
ウォーキング
最も手軽で基本的な運動です。正しい姿勢で、少し大股で歩くことを意識しましょう。
スクワット
太ももやお尻の筋肉を鍛えるのに効果的です。椅子や壁に手をついて、ゆっくりと腰を落としましょう。
かかとの上げ下ろし
ふくらはぎの筋肉を鍛えます。何かに捕まりながら、つま先立ちを繰り返します。
片足立ち
バランス感覚を養います。転倒しないように、必ず壁やテーブルの近くで行いましょう。
運動は、体調の良い時に、痛みを感じない範囲で行うことが大切です。かかりつけ医やケアマネジャーに相談し、ご自身に合った運動法を見つけるのも良いでしょう。
転倒リスクを減らす住環境の整備
筋力やバランス能力が低下しても、住環境を整えることで転倒のリスクを大幅に減らすことができます。自宅の中を見直し、危険な箇所を改善しましょう。
手すりの設置
廊下や階段、トイレ、浴室など、立ち座りや移動の際に身体を支える場所に設置します。
段差の解消
敷居などの小さな段差は、スロープを設置して解消します。カーペットの縁はテープで固定しましょう。
照明の確保
廊下や足元を照らす常夜灯を設置するなど、家の中を明るく保ちます。
床の工夫
滑りやすい床材は避け、ワックスの塗りすぎにも注意します。浴室には滑り止めマットを敷きましょう。
整理整頓
床に物や電気コードを放置しないようにし、動線を確保します。
これらの住宅改修には、介護保険の補助金が利用できる場合があります。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。
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このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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