嚥下とは?高齢者の食事を支える機能の仕組みと安全に食べるための訓練法

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嚥下とは?高齢者の食事を支える機能の仕組みと安全に食べるための訓練法

私たちは毎日当たり前のように食事をしていますが、「食べ物を飲み込む」という動作について、深く考えたことはあるでしょうか。この飲み込む動作を専門的に「嚥下(えんげ)」と呼びます。嚥下は、単に食べ物を胃に送るだけでなく、栄養や水分を摂取し、生命を維持するために不可欠な、非常に高度で複雑な機能です。しかしこの機能は、加齢とともに少しずつ衰えていきます。嚥下機能が低下すると、食事中にむせたり、食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」を起こしやすくなり、時には命に関わる肺炎や窒息につながる危険性もあります。この記事では、私たちの命と食事の楽しみを支える「嚥下」の仕組みから、高齢になると機能が低下する原因、そして安全に食事を続けるために今日からできる訓練法や工夫まで、わかりやすく解説します。

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嚥下とは?食事と命を支える重要な働き

「ごっくん」は生命維持に不可欠な精密動作

「嚥下」と聞くと、単に「ごっくんと飲み込むこと」をイメージするかもしれません。しかし、実際には食べ物を認識してから胃に送るまでの一連のプロセス全体を指す、生命維持に欠かせない重要な働きです。

嚥下は、口に入れた食べ物を、気管という空気の通り道と間違えることなく、食道から胃へと正確に送り込むための、脳・神経・筋肉が連携した一連の精密な動作です。この機能が正常に働くことで、私たちは以下のような恩恵を受けています。

栄養と水分の補給
生命活動に必要なエネルギーや水分を体内に取り込む。
誤嚥の防止
食べ物が気管に入るのを防ぎ、肺炎などの病気から身体を守る。
食事の楽しみ
味や食感を楽しみ、精神的な満足感や生活の質(QOL)を高める。

このように嚥下は、身体的な健康維持はもちろん、豊かな人生を送る上でも欠かせない役割を担っているのです。

高齢者にとって嚥下機能の維持が大切な理由

年齢を重ねると、足腰の筋肉が衰えるのと同じように、嚥下に関わる筋肉や神経の働きも徐々に低下していきます。この嚥下機能の低下を放置すると、様々なリスクが生じます。

嚥下機能低下がもたらす主なリスク
リスクの種類 具体的な内容
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん) 食べ物や唾液が細菌とともに気管に入り、肺で炎症を起こす病気です。高齢者の肺炎の多くがこれにあたり、命を落とす原因の上位を占めています。
栄養不足・脱水 飲み込みにくさから食事量が減ったり、水分を摂るのを避けたりすることで、低栄養状態や脱水症状に陥りやすくなります。
窒息 食べ物が喉に詰まり、呼吸ができなくなる状態です。瞬時に命に関わる非常に危険な状態です。
QOL(生活の質)の低下 食事への不安や恐怖から、食べること自体が苦痛になり、生活の楽しみが失われてしまいます。

こうした深刻な事態を避けるためにも、高齢者にとって嚥下機能を意識し、維持していくことは非常に大切なのです。

食べ物が口から胃へ運ばれる嚥下の過程

食べ物が口に入ってから胃に届くまで、嚥下は大きく分けて5つの段階(期)を経て行われます。この一連の流れがスムーズに行われることで、安全な食事が可能になります。

食べ物を認識し口の中で準備する(先行期・準備期)

嚥下は、食べ物を口に入れる前から始まっています。

先行期(認知期)

食べ物の形や匂いを目や鼻で認識し、「これは食べ物だ」と判断する段階です。何を食べるかによって、唾液の分泌が促されたり、どう食べるかを考えたりします。

準備期

食べ物を口に取り込み、歯で噛み砕き(咀嚼)、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい塊(食塊:しょっかい)を作る段階です。舌や頬の筋肉が活発に働きます。

喉へ送り込み飲み込む(口腔期・咽頭期)

ここからが、一般的に「飲み込む」とイメージされる段階です。

口腔期

準備期で作られた食塊を、舌を使って喉の奥(咽頭:いんとう)へと送り込む段階です。舌を上あごに押し付け、巧みに食塊を移動させます。

咽頭期

嚥下プロセスの中で最も重要かつ複雑な段階です。食塊が咽頭に達すると、反射的に「ごっくん」という嚥下運動が起こります。この時、喉頭蓋(こうとうがい)というフタが気管の入り口を瞬時に塞ぎ、食塊が食道へと安全に送り込まれます。

食道から胃へ送る(食道期)

咽頭を通過した食塊は、最後の旅路につきます。

食道期

食道に入った食塊が、食道の筋肉の波打つような動き(蠕動運動:ぜんどううんどう)によって、胃へと運ばれていく段階です。この動きは、自分の意思とは関係なく自動的に行われます。

なぜ衰える?高齢者の嚥下機能が低下する主な原因

若い頃は何の問題もなかったのに、なぜ年齢とともに嚥下機能は低下していくのでしょうか。それには、身体の自然な変化や病気など、複数の原因が関わっています。

加齢による飲み込むための神経や筋肉の衰え

最も大きな原因は、加齢に伴う身体機能の自然な低下です。

腕や足の筋肉が衰えるのと同じように、舌や喉、頬など、嚥下に関わるたくさんの筋肉も徐々に痩せて力が弱くなります。また、飲み込みの反射をコントロールする神経の反応も鈍くなるため、食べ物が気管に入りそうになっても、フタが閉まるタイミングが遅れがちになります。

脳梗塞などの病気や薬の副作用による影響

特定の病気の後遺症や、服用している薬が嚥下機能に影響を及ぼすこともあります。

脳梗塞やパーキンソン病など

脳や神経の疾患は、嚥下をコントロールする指令系統にダメージを与え、筋肉の麻痺などを引き起こすことがあります。

薬の副作用

睡眠薬や精神安定剤など、筋肉の緊張を緩めたり、意識レベルを低下させたりする薬は、嚥下反射を鈍らせる可能性があります。

口腔ケア不足による口内環境の悪化

意外に見過ごされがちですが、口の中の状態も嚥下機能に大きく影響します。

虫歯や歯周病で歯を失ったり、合わない入れ歯を使っていたりすると、食べ物を十分に噛み砕けません。うまく噛めないと、飲み込みやすい食塊を作ることができず、嚥下が困難になります。

また、口の中が不潔で細菌が繁殖していると、万が一誤嚥してしまった際に、重篤な誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが格段に高まります。

嚥下機能の低下が招く危険|誤嚥と窒息のリスク

嚥下機能の低下は、単に「食べにくい」という問題だけでは済みません。時には命を脅かす、重大な事故につながる危険性をはらんでいます。

食べ物や唾液が気管に入ってしまう「誤嚥」

誤嚥(ごえん)とは、食べ物や飲み物、唾液などが、食道ではなく誤って気管に入ってしまうことです。健康な人なら、誤嚥しそうになると激しくむせて気管から異物を排出しようとします。しかし、高齢になると咳をする力も弱まり、むせる反応すら起こらずに誤嚥してしまう「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」が増えてきます。細菌を含んだ唾液や食べ物が肺に入ると、炎症を起こして「誤嚥性肺炎」を発症します。これは高齢者の命を奪う大きな原因の一つであり、最大限の警戒が必要です。

命の危険に直結する「窒息」

窒息は、食べ物が喉や気管に詰まって空気の通り道を完全に塞いでしまう状態です。

嚥下機能が低下していると、うまく飲み込めなかった食べ物が喉に詰まりやすくなります。特に、お餅やこんにゃくゼリー、パン、大きめの肉などは窒息を起こしやすい食品として知られています。

窒息は呼吸が完全に停止してしまうため、その場で迅速な対応ができなければ、数分で死に至る非常に危険な状態です。

安全な食事のために今日からできる嚥下訓練と工夫

嚥下機能の衰えは加齢とともに誰にでも起こりうることですが、日々の訓練や少しの工夫で、その機能を維持・向上させ、安全に食事を続けることが可能です。

食事の前に行う嚥下体操と口の準備運動

食事の前に、これから使う口や喉の筋肉をウォーミングアップしてあげることは、誤嚥予防に非常に効果的です。代表的な体操をご紹介します。

首と肩のストレッチ

首をゆっくり前後左右に倒したり、肩を上げ下げしたりして、首周りの筋肉の緊張をほぐします。

口と頬の運動

口を大きく開けたり閉じたり、頬を膨らませたりすぼめたりする運動です。食べこぼしを減らす効果も期待できます。

舌の運動

舌を前に長く出したり、左右の口角を舐めるように動かしたりします。食塊をうまくまとめるための筋肉を鍛えます。

発声練習「パタカラ体操」

「パ」「タ」「カ」「ラ」という音を繰り返し発声します。それぞれ唇、舌、喉の奥を使うため、食事に必要な一連の動きをスムーズにする効果があります。

誤嚥を防ぐ正しい食事の姿勢と食べ方のポイント

食べるときの姿勢や食べ方を少し意識するだけで、誤嚥のリスクは大きく減少します。

姿勢
椅子に深く腰かけ、足の裏をしっかりと床につけます。少し前かがみになり、軽くあごを引く姿勢が理想的です。あごを引くことで、気管の入り口が狭まり、食道が広がるため、食べ物がスムーズに食道へ流れ込みやすくなります。
食べ方
一口の量は少なめにし、よく噛んでから飲み込みましょう。焦らず、一口ずつ確実に飲み込んだことを確認してから、次の一口を口に運びます。また、テレビを見ながらなどの「ながら食べ」は避け、食事に集中することも大切です。

食べやすさに配慮した食事(嚥下調整食・介護食)の選び方

飲み込む力が弱くなってきた方のために、調理法を工夫した食事を「嚥下調整食」「介護食」と呼びます。

嚥下調整食の工夫の例
工夫の種類 具体的な内容
とろみをつける 水やお茶、汁物などの水分は、サラサラしていると気管に入りやすいため、とろみ調整食品を使って飲み込みやすい粘度に調整します。
食材の形状を変える 食材を細かく刻んだ「きざみ食」、ミキサーにかけた「ミキサー食」、食材を一度ペースト状にしてから固めた「ソフト食(ムース食)」など、噛む力や飲み込む力に合わせて形状を調整します。
まとまりを良くする パサパサして口の中でばらけやすい食材は、あんかけにしたり、マヨネーズなどで和えたりして、まとまりやすくします。

※どの食事形態が適切かは個人によって異なります。必ず医師や管理栄養士、言語聴覚士などの専門家に相談して決めましょう。

お口を清潔に保つ口腔ケアの重要性

嚥下訓練や食事の工夫と並行して、絶対に欠かせないのが口腔ケアです。

どれだけ気をつけていても、誤嚥を100%防ぐことは困難です。しかし、食前・食後の歯磨きやうがいを徹底し、口の中を清潔に保っておけば、万が一誤嚥してしまっても、肺に送り込まれる細菌の量を減らすことができ、誤嚥性肺炎の発症リスクを大幅に下げることができます。

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監修者

花尾 奏一(はなお そういち)

保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士

有料老人ホームにて介護主任を10年 
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施

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