本当にすべき診療報酬の改定とは【介護のゴカイ 39】

診療報酬改定をめぐる政治の動き
最近になって診療報酬の改定問題が騒がしくなっている。
国立病院や大学病院の8割が赤字という報道の影響もあったのだろうが、自民党総裁に就任後初の記者会見でも「病院、介護施設はいま大変な状況になっている。病院は7割が深刻な赤字。介護施設の倒産は過去最高になった」と危機意識を表明し、さらに「(2026年度)診療報酬改定(の改定率決定)は年末にあるが、実際にその効果があらわれるのはちょっと先であり、それを待っていられない状況。地域にある医療機関がどんどん倒産していくことになると大変(な状況になる)。介護報酬は改定年(=2027年度)がまだ先であり、そこまで待っていられない。ここは補正予算を使って支援できる形を検討してもらいたいと思っている」とまで述べている。
いっぽう、財務省は11月11日の財政制度等審議会財政制度分科会に、診療所の院長(開業医)の給与水準の高さを示し、改めて2026年度診療報酬改定で診療所について「適正化の方向で検討すべき」と主張している。
この問題については、11月13日の参議院予算委員会で日本維新の会の猪瀬直樹議員が、「病院は倒産したり、高額な機械を購入したり、非常に大変。しかし、診療所については利益が出ている。これまでセットで診療報酬改定が行われてきたが、例えば病院は上げる、あるいは診療所を下げるみたいな、今までと違った報酬改定率を分けて考える時期に来ているのではないか?」と質問した。これに対して高市首相は、「病院と診療所を分けるとかそういう話ではない」と否定した。
公定価格という仕組みと国民負担
日本の場合、病院や診療所のほとんどが保険診療を行っている。
この場合、医師の腕がいいとか、高額の機械を買うとか、土地代や家賃が高いところでも安いところでも、すべて診療報酬という公定価格で医療を行っていると言うことだ。
そのために、これが安いと診療所や病院の経営は苦しくなる。逆に高いと利益が上がるということで、医療機関にとっては死活問題だ。
介護施設についても介護報酬が公定価格になっているので、やはり経営はそれに左右される。
いっぽうで、診療報酬が上がると、3割負担や1割負担であっても、もとの値段が上がるので患者としての負担は増える。
それ以上に、国民医療費が増えるので、給料から引かれる健康保険料が上がってしまい、手取りが減ることになる。
そういうわけで安易に上げていいものでもないし、このままだとうなぎ上りで2040年には国民医療費が65兆円にもなってしまうことは猪瀬議員も指摘している。
安易な引き上げより先にすべき経営改革
私自身も安易な診療報酬の引き上げには賛成しかねると思っている。
一つには大学病院や国立病院の赤字は診療報酬が安いからだと一概に言い切れないところがあるからだ。
同じ大学病院でも順天堂大学や国際医療福祉大学のようにかなりの黒字を出しているところもある。
両方とも高額な医療機械もその財政的な豊かさのために十分に揃っている。
やはり経営者の腕の問題だろう。
大学病院の場合、病院長は基本的に大学教授から選ばれる。
そもそも、大学医学部の教授の多くは論文の数で選ばれ、名医と言うより動物実験の実績で選ばれる。
経営者の手腕が優れた順天堂大学の場合は、腕のいい人が教授に選ばれるので患者にも人気があり、経営もうまくいっている。
だから天皇陛下の執刀も東大病院に入院しているのに、腕のいい順天堂大学の教授が行い、東大の教授は脇で突っ立っていただけだ。
こういう研究業績で選ばれた教授は腕がダメなだけでなく、患者のニーズもよくわかっていない。こういう人間に病院経営をやらしてもうまくいくはずがない。
会社が赤字の場合は、国に頼るのでなく、経営者が責任を取り、変わるのが原則だろう。国の財政状況が厳しく、国民がこれ以上の負担を避けたいと思っているのなら、大学医学部教授などというクズ経営者が名誉欲のために、あるいは教授の定年延長のために病院長をやるということについて、教授がやってもいいが、赤字の場合は責任をとるというシステムにしない限り、いい加減な経営が続いてしまう。それを改めて初めて診療報酬の値上げをするのが筋だろう。
国公立の病院についても大学医学部教授の天下り先になっているのが実情だ。
私がかつて勤めていた国立水戸病院は、大学医学部講師で教授レースに負けた人が院長をしていたが、大学教授に負けたくないという意地で、国立病院なのにどんな救急患者でも受け入れるという経営を行って、当時、日本で3つしかない黒字国立病院だった。
その後も、院長は大学から呼ばず、病院の生え抜きの人がなり、経営もうまくいっていると聞く。
大学医学部教授は経営も臨床もダメなくせに名誉欲だけ強い人が多く、そういう人が院長のポストを握ってしまうことが多い。
やはり診療報酬の問題である以上に人事の問題だろう。
全国一律の報酬が招く不公平
もう一つの大きな問題は、診療報酬が全国一律だと言うことだ。
土地代も安く、病院の建築費も安く、人件費も安い地方と、それらがすべて高い都心部とで、風邪をひこうが、心臓の手術をしようが入ってくるお金が同じというのでは、地方では医者が儲かり、都会では大病院の経営が成り立たないというのは当然のことと言える。
実際、選挙で医師会の集票力が下がったことが明らかなのに、いまだに医師会が自民党に強い力をもつのは、地方の医師たちがお金持ちなので、十分な献金ができるからだと考えられている。
実際、地方で病院チェーンをやっていて国会議員になった人は自分の選挙のたびに50億円も使っていたという伝説があるが、そのくらい儲かるのだ。
いい加減、全国一律の診療報酬をやめないと財政がもたないのは当然だ。
開業医と勤務医の格差是正
次の問題は、財務省も猪瀬議員も問題にしていた外来診療所と病院の診療報酬の見直しだ。
日本では開業医の収入が非常に多いのに、下手をすると週に2回くらい泊まりで勤務しないといけない病院の勤務医の給料は高給の商社などよりずっと安いくらいだ。
世界的に見ても外来診療のほうが病院勤務よりずっと高いなどと言うことは珍しい。
これというのも、開業医には日本医師会という強力な組合のようなものがあるからだ。日本医師会には勤務医部会というのもあるが、原則的に開業医の利益を守る集団だ。
それに対して、病院の政策提言集団である日本病院会というのはあまりに政治力がない。
そのため、開業医ばかり待遇がよくなり、勤務医の待遇が悪く、今はビル診療などで簡単に開業できるので、勤務医不足が続いている。
地域で安心して入院できるためにも、医療財政の健全化のためにもこのアンバランスの是正は必須だ。
この意味では猪瀬議員の指摘は正鵠を射ているのだが、高市氏は否定した。
それだけ医師会に遠慮していると言うことだろう。
最も深刻な問題は「介護報酬」の低さ
診療報酬については、以上のようにちゃんと儲けられるような経営改革を推し進めることと、地方と都会の一律料金をやめることと、開業医と勤務医のバランスを整えることが必須と思われるが、私はそれ以上の問題は、医療に対して介護の報酬が低すぎることだと考えている。
確かに日本看護協会の政治力が強まっているし、さまざまな病院の規制のために看護師が足りない病院はやっていけなくなったので、看護師の給料はずいぶんよくなった。
このような規制のおかげで作業療法士や理学療法士もよくなっている。
ただ、大学院卒の資格なのに、保険の点数がつかなかったり、精神科病院で雇わなければいけないというルールがないので臨床心理士の給料は非常に安い。
これも改善しないといけないが、それ以上に、介護がものすごい人手不足なのは、やはり介護報酬が安いからだろう。
これでは歳をとって要介護状態になった時に安心して介護が受けられない。
特別養護老人ホームが足りないのも、デイサービスが足りないのも、人件費が安いために人手不足だからとされている。介護報酬も実質全国一律なので、とくに都会での経営が苦しく、人手不足、サービス不足が顕著だ。
介護保険料を給料や年金から天引きしているのに、この状態を放っておくのは詐欺とも言える。
やはりこれを引き上げないことには老後の不安は解消しない。
財源確保とメディアの責任
ただ、それには財源が要る。
やはり無駄な薬、無駄な検査の見直しは必須だろう。
こうして5兆円くらいのお金を浮かせることができれば、必要なところで診療報酬も引き上げられるし、介護報酬も引き上げられる。
しかし、日本の場合テレビ局が腐りきっているので、このような主張をすると私のようにテレビから干される。
早く製薬会社のテレビCM禁止を政治が打ち出してもらいたいものだ。

著者
和田 秀樹(わだ ひでき)
国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科医師を歴任。
著書に「80歳の壁(幻冬舎新書)」、「70歳が老化の分かれ道(詩想社新書)」、「うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ(講談社+α新書)(樋口恵子共著)」、「65歳からおとずれる 老人性うつの壁(毎日が発見)」など多数。
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