老人ホーム入居時に住民票は移すべき?住所変更の手続きや住所地特例を解説

親御様やご自身が老人ホームへ入居する際、多くの人が直面する疑問の一つが「住民票を移すべきかどうか」という問題です。
結論から申し上げますと、生活の拠点が老人ホームに移る場合は、原則として住民票を移すことが法律で定められています。しかし、短期的な滞在である場合や、特定の事情がある場合には例外も存在します。
また、住所を変更することで介護保険料が高額になってしまうことを防ぐ「住所地特例」という制度や、介護費用負担を軽減するための「世帯分離」といった仕組みを理解しておくことも非常に重要です。
本記事では、老人ホーム入居時の住民票異動に関する基本的なルールから、メリット・デメリット、住所地特例の仕組み、そして実際の手続き方法までを網羅的に解説します。入居後の生活を安心して送るために、正しい知識を持って手続きを進めましょう。
老人ホーム入居時に住民票は移すのが原則
老人ホームへの入居が決まった際、引っ越しと同様に住民票の異動(転出・転入届)を行うべきか悩まれる方は少なくありません。
基本的には、老人ホームに入居して生活の拠点が施設に移る以上、住民票も施設へ移すことが原則となります。ここでは、法律上の観点や居住実態に基づいた判断基準について解説します。
法律上の義務と居住実態による判断
住民基本台帳法という法律において、私たちの住所は「生活の本拠」にあると定められています。生活の本拠とは、実際に日常生活を送っている場所のことを指します。
したがって、老人ホームに入居し、そこで食事や睡眠をとり、継続的に生活を営むのであれば、そこが「生活の本拠」となります。法律上、転居してから14日以内に住民票の異動手続きを行うことが義務付けられています。
「正当な理由がなく届け出をしない場合」は、最大5万円の過料が科せられる可能性もあるため注意が必要です。ご本人の体調や意思能力の問題で手続きが難しい場合でも、ご家族などの代理人が手続きを行うことが一般的です。
施設の種類や入居期間による違い
入居する施設の種類や契約形態によっても、住民票を移すべきかの判断が変わる場合があります。
一般的な有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)、サービス付き高齢者向け住宅などは、終の棲家として、あるいは長期にわたり生活する場として利用されることが多いため、住民票を移すのが通例です。
一方で、在宅復帰を目的とした施設である「介護老人保健施設(老健)」の場合でも、入居期間が長期化する見込みであれば住民票を移すケースが増えています。施設側から「住民票を移してください」と案内される場合もあれば、ご家族の判断に委ねられる場合もありますので、契約時に施設へ確認することをおすすめします。
一時的な入居の場合は移さないこともある
すべてのケースで必ず住民票を移さなければならないわけではありません。生活の拠点が「一時的」に施設にあるだけで、将来的に元の家に戻ることが前提となっている場合は、住民票を移さないという判断も認められています。
- ショートステイ(短期入所生活介護)
- 数日から数週間程度の短期間のみ施設を利用するサービスです。生活の拠点はあくまで自宅にあるため、住民票を移す必要はありません。
- 期間限定の入居(ロングショートステイなど)
- 自宅の改修工事期間中や、家族の事情で1〜2ヶ月程度避難的に入居する場合など、戻る時期が明確な場合は移さないことが一般的です。
- 看取り目的での短期入居
- 余命宣告を受けており、極めて短期間での退去(看取り)が想定される場合などは、自治体や施設の判断により、住民票を移動させずに対応することもあります。
住民票を移すことのメリットとデメリット
住民票を老人ホームに移すことには、実務的なメリットが多く存在する一方で、心理的な抵抗感や手続きの手間といったデメリットも存在します。
どちらが良いか迷われている方は、以下の比較を参考に、ご本人やご家族にとって最適な選択を検討してください。
住民票を移す主なメリット
住民票を施設に移すことで得られる最大のメリットは、行政サービスや郵便物の管理がスムーズになる点です。特にご家族が遠方に住んでいる場合、施設に住民票があることで多くの手間が省けます。
行政からの郵便物が施設に直接届く
高齢になると、介護保険証の更新、後期高齢者医療保険の通知、年金に関する書類など、行政から重要な郵便物が頻繁に届きます。
住民票を施設に移していれば、これらの書類はすべて施設に直接届きます。施設に届いた郵便物は、スタッフが管理し、ご本人やご家族に渡してくれるため、郵便物の確認漏れや紛失のリスクが大幅に減ります。
もし住民票を実家に残したままにすると、空き家になったポストに重要書類が溜まってしまい、手続きの期限を過ぎてしまうといったトラブルが起きかねません。
施設の立地する自治体の独自サービスが受けられる
住民票を移すことで、その地域の「住民」となり、自治体が独自に行っている高齢者向けサービスを利用できる権利が得られます。
- インフルエンザ等の予防接種費用助成
- 多くの自治体では、住民登録がある高齢者を対象に、予防接種の一部または全額を公費で助成しています。
- 敬老祝い金や記念品
- 一定の年齢に達した住民に対して、お祝い金や商品券などを支給する自治体があります。
- 公共交通機関や施設の割引
- バスや電車の無料パス、地域の博物館や公衆浴場の利用料割引など、その地域限定の福祉サービスを享受できます。
選挙権を行使しやすくなる
選挙権は、原則として住民票がある自治体で行使します。施設に住民票を移していれば、施設の所在地が選挙区となります。
さらに、多くの老人ホームは「不在者投票指定施設」に指定されており、投票所まで出向かなくても、施設内で投票を行うことができます。身体的な事情で移動が難しい方にとって、施設内で一票を投じることができるのは、社会参加の観点からも大きなメリットと言えます。
住民票を移すデメリットや懸念点
一方で、長年住み慣れた土地から住民票を抜くことに対するデメリットも存在します。これらは主に心理的な側面や、手続き上の煩雑さが中心となります。
手続きの手間と心理的な抵抗感
当然ながら、役所での転出・転入の手続きが必要です。また、運転免許証や銀行口座、クレジットカード、年金など、住所変更に伴う付随手続きも発生します。ご高齢の方や、遠方にお住まいのご家族にとっては、これらの事務作業が負担に感じられる場合があります。
また、「長年住んだ家から籍を抜く」という行為に対して、寂しさや、「もう家には戻れない」という喪失感を抱く方もいらっしゃいます。ご本人の気持ちを尊重し、納得していただいた上で手続きを進める配慮が必要です。
住民票を移さない場合に生じる問題点
「面倒だから」「家に戻るかもしれないから」という理由で、実態は施設に住んでいるのに住民票を移さないままでいると、様々な不都合が生じる可能性があります。ここでは、具体的にどのようなリスクがあるのかを解説します。
重要書類や郵便物の受け取りが遅れるリスク
前述のメリットの裏返しになりますが、住民票を移さない場合、役所からの書類はすべて「旧住所(元の家)」に届きます。ご家族が定期的に実家のポストを確認に行ける距離であれば良いのですが、そうでない場合、書類の発見が遅れます。
例えば、介護保険証の更新案内や、高額介護サービス費の還付通知などに気づかず、期限切れで不利益を被る可能性があります。
郵便局の転送サービスを利用する方法もありますが、転送期間は1年間であり、更新手続きを忘れると転送されなくなります。また、金融機関や役所からの「転送不要」扱いの郵便物は転送されずに差出人へ戻されてしまうため、重要な通知が手元に届かない事態が発生します。
行政手続きや介護保険更新の煩雑さ
介護保険の認定には有効期間があり、定期的な「更新申請」が必要です。
住民票を移していない場合、この更新手続きは「住民票がある自治体」に対して行う必要があります。認定調査員との面談なども、本来は住民票のある地域の調査員が行いますが、遠方の施設に入居している場合は、自治体間で「調査依頼(嘱託)」の手続きが必要になるなど、事務処理が複雑になり、認定結果が出るまでに時間がかかることがあります。
また、ご家族が手続きのために、わざわざ旧住所の役所まで出向かなければならないケースも考えられます。
地域密着型サービスが利用できない可能性
介護保険サービスの中には「地域密着型サービス」と呼ばれるカテゴリーがあります。これは、原則として「その自治体に住民票がある人しか利用できないサービス」です。
- 地域密着型通所介護(小規模デイサービス)
- 定員18人以下の小規模なデイサービスは、住民票のある市民のみが利用対象です。
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
- 認知症の方が少人数で共同生活を送るグループホームも、原則として施設と同じ市区町村に住民票がなければ入居できません。
もし、入居を検討している施設が「地域密着型特定施設入居者生活介護」の指定を受けている有料老人ホームであった場合、住民票を移さなければ(あるいは元々その地域の住民でなければ)入居自体ができないことになります。
介護保険料が変わらない「住所地特例」制度とは
住民票を移す際に最も懸念されるのが、「施設のある自治体の介護保険料が高かったらどうしよう」という点です。介護保険料は自治体によって金額が異なります。
しかし、ご安心ください。老人ホームなどの施設に入居する場合、「住所地特例(じゅうしょちとくれい)」という制度が適用され、元の住所地の介護保険料が継続される仕組みがあります。
住所地特例の仕組みと目的
通常、介護保険の保険者(運営主体)は、住民票がある自治体です。しかし、老人ホームが多く建設されている自治体に、介護が必要な高齢者が集中して住民票を移してしまうと、その自治体の介護費用の負担が急増し、財政が圧迫されてしまいます。
これを防ぐために設けられたのが「住所地特例」です。
この制度では、施設に入居するためにA市からB市の施設へ住民票を移した場合でも、引き続きA市が介護保険の保険者となり、保険料もA市の基準で支払います。これにより、施設が多い自治体の負担増を防いでいます。
住所地特例の対象となる施設
住所地特例はすべての施設に適用されるわけではありません。対象となる主な施設は以下の通りです。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- いわゆる「特養」です。要介護3以上の方が入居する公的な施設です。
- 介護老人保健施設(老健)
- 在宅復帰を目指してリハビリを行う施設です。
- 特定施設入居者生活介護の指定を受けた有料老人ホーム
- 介護付き有料老人ホームなどが該当します。住宅型有料老人ホームでも、対象となるケースが多くあります。
- 軽費老人ホーム(ケアハウス)
- 比較的低額な料金で利用できる老人ホームです。
- サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の一部
- 「特定施設」の指定を受けている、または「食事・介護・家事・健康管理のいずれかを提供」しており契約形態が利用権方式であるなど、一定の条件を満たすサ高住が対象です。
住所地特例の対象外となる施設
一方で、住所地特例が適用されず、引っ越し先の自治体の介護保険に切り替わる施設もあります。
- グループホーム
- 地域密着型サービスに分類されるため、原則として住所地特例の対象外です。住民票を移すと、施設がある自治体の被保険者になります。
- 地域密着型特別養護老人ホーム
- 定員29人以下の小規模な特養です。こちらも地域密着型サービスのため、住所地特例の対象外です。
後期高齢者医療制度における住所地特例
75歳以上の方が加入する「後期高齢者医療制度」にも、同様に住所地特例があります。
老人ホームに入居して住所を移した場合でも、医療保険料は元の住所地の都道府県(広域連合)の基準で計算され、元の自治体に納めることになります。これにより、医療費負担の地域格差も調整されています。
介護費用を抑えるための「世帯分離」の検討
老人ホームに入居すると、毎月の施設利用料や介護サービス費がかかります。この費用負担を少しでも軽くするために検討したいのが「世帯分離」です。
住民票を移すタイミングで、この手続きを行う方が多くいらっしゃいます。
世帯分離とはどのような手続きか
世帯分離とは、同じ住所に住んでいながら、住民票上の「世帯」を分ける手続きのことです。通常、夫婦や同居家族は一つの世帯として登録されていますが、これを「夫の世帯」と「妻の世帯」のように分け、それぞれが世帯主となることができます。
老人ホームに入居して住民票を施設に移せば、自然と元の家族とは別世帯になります。しかし、夫婦で同じ施設の同じ部屋に入居する場合や、住民票を施設に移さず実家のままとする場合などは、意図的に「世帯分離」の届出をしない限り、同一世帯のままとなります。
世帯分離を行うメリットと介護費用の負担軽減
介護保険サービスの自己負担額や、施設の食費・居住費の減免制度(特定入所者介護サービス費)は、基本的に「世帯の所得」に基づいて決定されます。
- 高額介護サービス費の上限が下がる
- 世帯分離を行い、入居者ご本人が「住民税非課税世帯」の扱いになれば、介護サービス費の月々の自己負担上限額が下がります。
- 負担限度額認定が受けられる可能性がある
- 特養や老健などを利用する際、世帯全員が住民税非課税であり、かつ預貯金額が一定以下であれば、食費と居住費(部屋代)の負担が軽減される制度(補足給付)の対象となる可能性があります。
現役並みの所得があるご家族と同じ世帯に入っていると、ご本人の年金が少なくても「高所得世帯」とみなされ、負担増となるケースがあります。世帯分離によってご本人単独の所得で判定されるようになれば、費用負担を大幅に抑えられる可能性があります。
国民健康保険料への影響などの注意点
世帯分離にはメリットだけでなく、注意点もあります。国民健康保険に加入している場合、世帯ごとに計算される「平等割」という基本料金が、世帯が分かれることで二重にかかるようになり、世帯全体の保険料総額が上がってしまう可能性があります。
介護費用の軽減額と、健康保険料の増額分をシミュレーションし、トータルでメリットがあるかを慎重に判断する必要があります。
住民票の住所変更手続きの流れと必要書類
実際に住民票を移す際の手続きについて、具体的な流れと必要書類を解説します。手続きは、現在の住所地と新しい施設のある自治体の役所で行います。
転出届と転入届の提出期限と場所
手続きは大きく分けて「転出(今の住所から出る)」と「転入(新しい住所に入る)」の2ステップです。同じ市区町村内で施設へ移る場合は「転居届」のみで完了します。
| 手続きの種類 | 提出場所 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 転出届 | 現在住んでいる(元の)市区町村役場 | 引越しの14日前から引越し後14日以内 |
| 転入届 | 施設がある(新しい)市区町村役場 | 引越し(入居)をした日から14日以内 |
注意点として、転入届は「実際に住み始めてから」でないと提出できません。予定の段階では受理されないため、入居後に手続きに行きます。
手続きに必要なものとマイナンバーカードの扱い
窓口へ行く際は、以下のものを持参しましょう。
- 本人確認書類
- 運転免許証、パスポート、マイナンバーカード、健康保険証など。
- 転出証明書
- 前の役所で転出届を出した際に発行される書類です(マイナンバーカードを使って特例転出入をする場合は不要なこともあります)。
- 印鑑
- 認印で構いませんが、念のため持参します。
- マイナンバーカード
- 住所情報の書き換えが必要です。暗証番号の入力も求められます。
- 国民健康保険証・後期高齢者医療被保険者証
- 加入している場合は返却し、新しい自治体で再発行を受けます。
- 介護保険被保険者証
- 要介護認定を受けている場合は必ず持参します。
家族が代理で行う場合の委任状
ご本人が身体的な理由や認知症などで窓口に行けない場合は、ご家族が代理で手続きを行えます。
同一世帯のご家族であれば、基本的に身分証の提示のみで手続き可能ですが、別世帯のご家族(既に独立している子供など)が手続きを行う場合は、「委任状」が必要です。
委任状の様式は各自治体のホームページからダウンロードできることが多いので、事前に準備しておくとスムーズです。また、成年後見人が手続きを行う場合は、登記事項証明書などの代理権を証明する書類が必要です。
介護保険被保険者証の住所変更手続き
転出・転入の際、最も忘れずに手続きしたいのが介護保険です。要介護認定を受けている方が自治体をまたいで引っ越しをする場合、認定内容を引き継ぐための手続きが必要です。
- 受給資格証明書の交付
- 転出する役所で「介護保険受給資格証明書」をもらいます。
- 認定申請
- 転入先の役所に、転入届と一緒にこの証明書を提出し、要介護認定の申請を行います。
転入日から14日以内にこの手続きを行えば、改めて認定調査を受けることなく、元の要介護度をそのまま引き継ぐことができます。14日を過ぎると、一から認定調査を受け直すことになりかねないため、必ず期限内に行いましょう。
笑がおで介護紹介センター
老人ホームへの入居は、ご本人にとってもご家族にとっても、人生の大きな転機です。
今回解説した住民票の手続きや住所地特例、世帯分離といった行政手続きは複雑で、個別の状況によって最適な判断が異なる場合も多々あります。「法律のことはよくわからない」「自分たちの場合はどうするのが一番お得なのか知りたい」といった不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
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このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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