「推し活」で元気になる【カイゴのゴカイ 29】

 

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「推し活」で元気になる

昨年の暮れに、「人生が楽しくなる『シニア推し活』のすすめ」(KADOKAWA)という本を出した。 私は中高年以降については恋愛を勧めるような発言を続けてきた。 それによって、男性は男性ホルモンが、女性は女性ホルモンが増える。 これによって男性は意欲が増し、人付き合いも盛んになり、筋肉もつく。 女性は肌つやがよくなるし、骨粗しょう症の予防になる。 恋愛で幸せな気分になると免疫力も上がるので、がんになりにくくなるし、インフルエンザなどの感染症にもかかりにくくなる。

そういう意味で、歳をとるほど異性とつきあうことをタブー視するのは、老化を進めるだけと考えている。 ただ、そうはいっても周りの目もあるし、夫婦仲を悪くしたくないし、自分の道徳観が許さないという人も少なくないのは確かだ。 そこで、疑似恋愛ではいけないのかということもよく聞かれる。 実は、私も疑似恋愛でもいいと考えている。 たとえば、スポーツクラブのインストラクターにほのかな恋愛感情をもつだけで、服装も変わるし、元気になったという話はしょっちゅう聞く。 それがカルチャーセンターの講師でもいいし、いきつけの店のおかみでもいい。 あるいは、タレントのおっかけなどでも似たような効果はあるはずだ。

そういうことを考えていたら、サントリーウエルネス株式会社の生命科学研究所というところが、推しの存在と幸福度には相関があるという研究をしていて、そのデータを見せてもらう機会があった。 Be supporters(ビーサポーターズ、Beサポ)という活動に参加する高齢者施設の利用者を対象にした調査なのだが、驚くような効用が実際に認められている。

100歳を過ぎても推し活で人生充実

100歳を過ぎ、施設の中でも食事の時間以外は居室で寝て過ごす時間が多かったAさんは、サッカーの観戦を通じてひいきのチームができると、サッカーの観戦会には毎回参加し、大声で歓声を上げたり、手拍子で選手をたたえるなど元気な姿を見せるようになった。 さらに応援用の食事(サポ飯)作りにも参加するのだが、その時には、ふだんは食が細いのに、食欲も大幅にアップしたという。 さらに「命つきるまでサッカーを楽しみなさい」などというメッセージを書き、それがスタジアムにも掲示されたそうだ。 そしてブラジル人の選手を応援するためポルトガル語の勉強まで始めたのだ。

結局、108歳を迎える1週間前にAさんは亡くなるのだが、亡くなるまでの人生の充実度が大幅に高まったのは間違いない。

推しに支えられ、毎日が楽しくなった

やはり特別養護老人ホームに入所し、部屋にこもりがちで他人との交流も好まず、レクリエーションに誘っても断ることが多かった94歳のBさんは、あるときテレビでサッカーを観戦し、ある選手のシュートの姿のかっこよさに目を奪われた。 以降、Beサポの活動に参加するようになり、ほかの利用者との会話も増え、介護職員とも、その選手やサッカーについての話を気軽にするようになった。 そして、部屋にかざったその選手の写真に「おはよう」「おやすみ」というようになり、ずっと元気になったそうだ。

そうこうするうちに、その選手を含めて3人の選手が「応援ありがとう」ということで施設を訪問することが決まった。 するとBさんは、恥ずかしそうにしながらも手紙を書き、さらに喜びの声をあげて、その3人と一緒に写真を撮った。 その後は試合の記録を書く習慣もつき、「毎日が面白くなり、笑顔が増えました。 命ある限り、明るく楽しく過ごしたい」と言っているそうだ。 推し活の効用恐るべしと言ったところだろう。

人生最後に最高の時間を

Cさんは92歳の男性で、戦争で足を負傷して義足の生活を送り、施設に入所後も座って過ごすことが多かった。 ところがやはりBeサポの活動に出会い、あるチームのサポーターになった。 そして、その施設のチーム応援の一環として、試合の開始を告げる旗をもってビッチに入場するフラッグベアラーをやらないかという提案を受ける。 そのために200mを自分の足で歩き切らねばならず、その練習に励むことになる。 気持ちの波はあるものの練習を重ね、1万人のファンの前で、それをやり切ったのだ。

こういう晴れ舞台は推し活をする人すべてに得られるものではないだろうが、この年齢の人にとって、人生最後で、最高の時間だったに違いない。 このように推し活は意欲を高め、機能回復にも役立つようだ。 ドラマティックな話ばかりを並べたが、疑似恋愛レベルでなくてもなんらかの推しができることが意欲を蘇らせることは珍しくない。

意欲の低下を防ぐ

何回か書いたと思うが、私の長年の高齢者医療の経験から、高齢者にとって一番怖いのは意欲の低下だ。 いろいろなことをやるのがおっくうになり、身体を使わないから、足腰が弱るし、頭を使わないと脳の機能が低下していく。 若い頃であれば、引きこもり生活をしていても歩けなくなることはないが、高齢者ではそうはいかない。 とくに男性の場合は、男性ホルモンが年齢と共に低下していくから、意欲の低下には要注意だ。

男性ホルモンの低下を防ぐために、異性(ホモセクシャルの人の場合は同性)の推しを作ることは、実は望ましいことなのだ。 それがキャバクラのホステスであっても、スナックのママさんであっても、場合によっては可愛いフィギュアでもいい。 いい歳こいてなんて言わないで、推しを作ると男性ホルモンの分泌は確実に増える。 女性の場合は、男性ホルモンも女性ホルモンも増えるので、肌つやがよくなると同時に意欲も出てくる。 これには、アイドルや韓流スターのおっかけでもいいのだ。 いずれにせよ、何か推しができるだけで生活に張りが出てくるのは確かなようだ。

推し活はいいことだらけ

実は、推しには別の心理学的効果がある。 高齢になるほど、人の世話になることが多くなるが、推しを通じて人のためにサポートをする気分になれる。 これは高齢者の自己肯定感を上げるためにはきわめて望ましいことだ。

もう一つ、推しのいいところは年齢制限がないことだ。 100歳を超した例を紹介したように、いくつになっても推しはできるし、それが身体も脳も若返らせる。 リアルな恋愛の場合は、とくに性愛の場合は、やはり高齢になるほど、体力的に難しくなる。 ところがその年齢を超えても人間が生きられるようになったのだから、代わりを見つける必要性は高まっている。 その最大の候補が推しというわけだ。

また、前述のようにリアルな恋愛については制約が多いのも事実だ。 年金分割など、制度上は熟年離婚しても、とくに女性が食べていきやすくなっているし、介護職などを選べば、ある程度の年齢であっても収入を得るのは可能になってきている。 つまり、どうしても夫と合わない場合、熟年離婚はしやすくなっている。 そのうえで、新たなパートナーを見つけるのは、なんら引け目を感じる必要はない。 それでも、本当は別に暮らしたいのに、そうはいかないと思っている人が多いのは確かだろう。

私も、夫源病のようになっている人や、夫がストレスになってうつ病になっている人に何回か離婚を勧めたことがあるが、「それはできない」という回答がほとんどだった。 もちろん、医師という立場で、そのほうがメンタルにいいということはできても、それ以上強く勧めることはできない。 そういう場合、推し活が現実的な選択かもしれない。

高齢者の推し活を応援しよう

日本という国では、高齢化、長寿化がこれだけ進んでいるのに、今でも高齢者の性的なことや、恋愛どころか、追っかけやオタク的なことにまで偏見が強い。 私自身は、高齢者が多かった(今は日本が高齢化率で抜かしたが)スウェーデンやデンマークでポルノ解禁を行ったように、ポルノ(これも男性ホルモンを確実に増やす)的なものにも、高齢化が進み、男性ホルモンの足りない人が多い中でもっと寛容になるべきだと考えているが、少なくとも高齢者だって人間なのだから恋愛は自由なはずだと信じている。

ただ、社会通念が変わるには時間がかかるだろうから、せめて追っかけやオタクをまずもっと受け入れたり、むしろ応援するような風潮が醸成されるべきだろう。 私の見るところ、推しというのは、異性でなくてもいいようだ。 オタクといわれる人は、かなりの高齢になってもアクティブさを保っている。 鉄道オタクとされる人は、見たい鉄道があれば、全国各地に飛び回っている。 オタクも含めて、推しは、高齢者のアクティビティを高めるので、老化予防にはとてもいいのだ。 ということで、推し活の効用を世間にもっと広めたいと考えている。

著者

和田 秀樹(わだ ひでき)

国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科医師を歴任。

著書に「80歳の壁(幻冬舎新書)」、「70歳が老化の分かれ道(詩想社新書)」、「うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ(講談社+α新書)(樋口恵子共著)」、「65歳からおとずれる 老人性うつの壁(毎日が発見)」など多数。

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