老人ホームの転居は可能?後悔しないための理由・探し方・注意点を解説

「入居した老人ホームが合わないかもしれない…」と感じたとき、「一度入居したら、もう移動できないのだろうか」と不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。結論から申し上げますと、老人ホームの転居は可能です。しかし、転居には精神的、身体的、そして金銭的な負担が伴うため、慎重に進める必要があります。多くの方が転居を考える背景には、「身体状況の変化」「人間関係の悩み」「費用の問題」など、やむを得ない理由があります。もし転居を決意された場合、後悔しないためには正しい手順を踏むことが非常に重要です。この記事では、老人ホームの転居を検討する主な理由から、後悔しないための具体的な進め方を「相談」「施設探し」「退去・引越し」の3つのステップで詳しく解説します。さらに、転居で失敗しないための費用面の注意点や、入居一時金の返還制度についても分かりやすくご説明します。現在、施設の転居でお悩みのご本人、そしてご家族にとって、この記事が最善の選択をするための一助となれば幸いです。
老人ホームの転居を検討する主な理由
老人ホームからの転居は、決して珍しいことではありません。入居時には「ここで最期まで」と思っていても、様々な理由から転居を考えざるを得ない状況が生まれることがあります。ここでは、多くの方が転居を検討する主な理由を5つご紹介します。ご本人やご家族の状況と照らし合わせながら、ご覧ください。
身体状況の変化で必要なケアを受けられなくなった
入居時には自立した生活が送れていた方でも、年齢を重ねるにつれて介護が必要になったり、病気によって医療的なケアが不可欠になったりすることがあります。例えば、以下のようなケースです。
- 介護度の変化
- 入居時は要支援だったが、要介護度が上がり、常時の見守りや手厚い介護が必要になった。
- 医療ニーズの高まり
- インスリン注射やたん吸引、胃ろうといった医療的ケアが日常的に必要になったが、現在の施設では看護師が24時間常駐しておらず対応できない。
- 認知症の進行
- 認知症が進行し、徘徊(はいかい)などの症状が見られるようになったが、施設に専門的なケア体制や設備が整っていない。
施設にはそれぞれ提供できるサービス範囲に限りがあります。ご入居者の心身の状態が変化し、施設の対応範囲を超えてしまった場合に、より適切なケアを受けられる施設への転居が検討されます。
スタッフや他のご入居者との人間関係の悩み
毎日を過ごす場所だからこそ、人間関係は生活の質に大きく影響します。最初は快適に過ごせていても、些細なことがきっかけで悩みにつながることがあります。
- スタッフとの相性
- 特定のスタッフとのコミュニケーションがうまくいかない、ケアの方針に納得できないなど、信頼関係を築けないことがストレスになる場合があります。
- 他のご入居者とのトラブル
- レクリエーション活動や食堂での席など、集団生活ならではの小さなすれ違いから、他のご入居者との関係が悪化してしまうことがあります。性格や生活リズムの違いが原因で、居心地の悪さを感じる方もいらっしゃいます。
人間関係の悩みは非常にデリケートな問題です。施設側に相談しても改善が見られない場合、心穏やかに過ごせる新しい環境を求めて転居を考える方が少なくありません。
月額費用など金銭的な負担が大きくなった
入居当初は問題なかった費用負担も、状況の変化によって重荷になることがあります。特に、長期的な視点での資金計画は非常に重要です。
- 収入の減少
- 年金の受給額や、ご家族からの援助額が変わり、月々の支払いが厳しくなるケースです。
- 想定外の費用の発生
- 介護度が上がったことによる介護サービス費の増加や、医療費、おむつ代などの実費負担が想定以上にかさみ、当初の予算を大幅に超えてしまうことがあります。
老人ホームの費用は、月額利用料だけでなく、様々な追加費用がかかる可能性があります。支払いが困難になり、やむを得ず、より費用を抑えられる施設への転居を決断するケースも見られます。
立地や設備の環境が合わない
生活環境は、日々の暮らしやすさに直結します。入居前には気づかなかった不便さが、ストレスの原因になることもあります。
- 立地の問題
- 「ご家族が面会に来やすいように」と選んだものの、実際に住んでみると近隣に散歩できる公園やスーパーがなく、外出の楽しみが減ってしまった。また、電車の騒音や、日当たりの悪さが気になるという声も聞かれます。
- 設備への不満
- 居室の広さや収納、共有スペースの使い勝手など、実際に生活してみないと分からない部分で不満が出てくることがあります。特に、浴室やトイレなどの水回りの設備は、身体状況の変化によっては使いづらくなることも考えられます。
これらの環境要因は、すぐには改善が難しい問題です。より快適で自分らしい生活を送るために、住み替えを検討するきっかけとなります。
施設の方針や雰囲気がご本人に合わない
施設の運営方針や全体の雰囲気は、ご入居者の性格や価値観と合うかどうかが非常に大切です。
- 運営方針とのミスマッチ
- レクリエーションが頻繁に行われる活気ある施設を好む方もいれば、静かで落ち着いた環境を望む方もいます。施設の特色が、ご本人の希望と異なっていた場合、窮屈さや孤独感を感じてしまうことがあります。
- 食事内容への不満
- 食事は毎日の大きな楽しみの一つです。味付けが口に合わない、メニューが画一的で飽きてしまう、といった不満が募り、転居の引き金になることもあります。
見学時には良い印象を受けても、実際の生活の中で「何か違う」と感じることは少なくありません。ご本人が精神的に満たされた生活を送るために、より相性の良い施設を探すことも重要な選択肢の一つです。
後悔しない老人ホーム転居の進め方 3ステップ
老人ホームの転居は、時間も労力もかかる大きな決断です。「今度こそ失敗したくない」という思いが強いからこそ、正しい手順で計画的に進めることが成功の鍵となります。ここでは、後悔しないための転居の進め方を3つのステップに分けて具体的に解説します。
ステップ1:まずはケアマネジャーや紹介センターに相談する
転居を考え始めたら、まずは一人で抱え込まずに専門家に相談することが第一歩です。客観的な視点からのアドバイスは、冷静な判断を助けてくれます。
転居すべきか客観的なアドバイスをもらう
ご本人やご家族だけで悩んでいると、感情的になったり、視野が狭くなったりしがちです。まずは、日頃から介護の状況をよく知るケアマネジャー(介護支援専門員)に相談してみましょう。現在の悩みや施設の状況を伝えることで、本当に転居が必要な状況なのか、あるいは現在の施設で解決できる問題なのかを一緒に考えてくれます。また、私たち「笑がおで介護紹介センター」のような老人ホーム紹介のプロに相談するのも有効な手段です。多くの施設情報や過去の事例をもとに、現在の悩みを解決できる他の選択肢や、転居する場合のメリット・デメリットについて、中立的な立場からアドバイスを提供します。
現在の施設への不満を伝える際のポイント
転居を決める前に、一度、現在の施設の責任者や相談員に不満や改善してほしい点を伝えてみることも大切です。その際に、ただ感情的に不満をぶつけるだけでは、関係が悪化してしまう可能性もあります。以下のポイントを意識して、冷静に話し合いましょう。
- 具体的な事実を伝える
- 「スタッフの対応が悪い」といった曖昧な表現ではなく、「〇月〇日の〇時頃、ナースコールを押したが10分以上誰も来なかった」のように、いつ、誰が、何をしたかを具体的に伝えます。
- 改善してほしい点を明確にする
- 単に不満を言うだけでなく、「今後は5分以内に一度様子を見に来てほしい」など、どう改善してほしいのかを具体的に提案することが、問題解決への近道です。
- 要望は書面に残す
- 話し合った内容は、後々のトラブルを防ぐためにも、要望書として書面にまとめ、施設側に渡しておくと良いでしょう。
話し合いによって問題が解決すれば、転居という大きな負担を避けられるかもしれません。それでも改善が見られない場合に、次のステップへ進むことを検討しましょう。
ステップ2:新しい転居先の探し方と見学のポイント
現在の施設での経験を活かし、次の施設選びでは同じ失敗を繰り返さないことが何よりも重要です。希望条件を明確にし、慎重に比較検討を進めましょう。
今回の経験を活かして希望条件を整理する
なぜ転居したいのか、その理由をもう一度振り返り、次の施設に求める条件を具体的にリストアップしてみましょう。その際、「絶対に譲れない条件」と「できれば満たしたい条件」に分けて優先順位をつけることがポイントです。
| 項目 | 絶対に譲れない条件(Must) | できれば満たしたい条件(Want) |
|---|---|---|
| 医療ケア | 看護師24時間常駐、胃ろう対応可 | 協力医療機関が〇〇科に強い |
| 費用 | 月額利用料が20万円以内 | 入居一時金が予算より低い |
| 立地 | 〇〇駅から徒歩10分以内 | 近くにスーパーや公園がある |
| 居室 | 個室でトイレ・洗面台付き | 日当たりが良く、収納が多い |
| 雰囲気 | 静かで落ち着いた雰囲気 | 食事が美味しいと評判 |
このように条件を整理することで、数多くの施設の中から候補を効率的に絞り込むことができます。
複数の施設を必ず見学し比較検討する
気になる施設が見つかったら、必ず複数の施設(できれば3ヶ所以上)を見学しましょう。1ヶ所だけでは、その施設が良いのか悪いのかを客観的に判断することが難しいからです。見学の際は、パンフレットやウェブサイトだけでは分からない点を自分の目で確かめることが重要です。
<見学時のチェックポイント>
- スタッフの様子
- スタッフ同士の会話やご入居者への接し方はどうか、忙しそうにしていても挨拶や笑顔はあるか、などを観察します。
- ご入居者の表情
- 入居している方々がどのような表情で過ごしているか、リビングなどで和やかに談笑する姿が見られるか、などを確認します。
- 施設の清潔感
- 居室や共有スペースはもちろん、トイレや浴室などの水回りが清潔に保たれているか、不快な臭いがしないか、などをチェックします。
- 食事
- 可能であれば、体験入居や昼食の試食を利用し、味付けや温かさ、食事中の雰囲気などを確認しましょう。
- 周辺環境
- 最寄り駅からの道のりや、周辺の騒音、日当たり、散歩できる場所があるかなどを実際に歩いて確かめます。
見学で感じたことや質問への回答は、忘れないうちにメモしておき、後で冷静に比較検討するための材料にしましょう。
ステップ3:現在の施設の退去手続きと引越し準備
新しい転居先が決まったら、現在の施設の退去と引越しの準備を計画的に進める必要があります。費用面でのトラブルを避けるためにも、契約内容の確認が不可欠です。
退去予告の期限を確認する
多くの老人ホームでは、退去する場合「 退去希望日の1ヶ月前(30日前)まで 」に書面で申し出ることを契約で定めています。まずは、入居時に交わした契約書や重要事項説明書を取り出し、「解約」「退去」に関する項目を確認しましょう。この予告期間を守らないと、実際に退去した後も翌月分の家賃相当額を請求されるなど、余計な費用が発生してしまう可能性があります。新しい施設の入居日と調整しながら、適切なタイミングで退去届を提出することが重要です。
引越し業者や必要な手続きの準備
退去日が決まったら、引越しの準備に取り掛かります。老人ホーム間の引越しは、荷物が少ない場合でも、高齢者の身体への負担を考えると引越し業者に依頼するのが安心です。複数の業者から見積もりを取り、サービス内容や料金を比較して決めましょう。同時に、以下のような行政や各種サービスの手続きもリストアップし、漏れなく進める必要があります。
行政手続き
- 住民票の異動 :旧住所の役所で「転出届」を提出し、新住所の役所で「転入届」を提出します。
- 介護保険 :要介護認定を受けている場合、転出時に「受給資格証明書」を受け取り、転入先の役所に14日以内に提出することで、要介護度を引き継ぐことができます。
- 後期高齢者医療被保険者証などの住所変更
ライフライン・その他
- 郵便物の転送届
- 電話やインターネット回線の移転・解約
- NHKの住所変更
- 金融機関や保険会社への住所変更届
引越し前後は慌ただしくなるため、事前にチェックリストを作成し、計画的に進めることをお勧めします。
老人ホームの転居で失敗しないための費用と注意点
老人ホームの転居では、新しい施設の入居費用だけでなく、現在の施設を退去する際にも費用が発生することがあります。思わぬ出費で資金計画が狂ってしまわないよう、事前にしっかりと確認しておくべき費用と注意点について解説します。
入居金の返還(クーリングオフ・返還金制度)を確認する
入居時に「入居一時金」などの前払い金を支払っている場合、その一部が返還される可能性があります。これには主に2つの制度が関係しています。
- クーリングオフ(短期解約特例)
- 有料老人ホームでは、入居日から90日以内に契約を解除した場合、支払った入居一時金から居住日数分の利用料(家賃相当額など)を差し引いた全額が返還される制度があります。これは老人福祉法で定められており、「90日ルール」とも呼ばれます。入居後すぐに「合わない」と感じた場合に利用できる重要な制度です。
- 返還金制度
- 90日を過ぎてから退去する場合でも、多くの施設では入居一時金の「償却期間」に応じて未償却分が返還されます。償却期間は施設ごとに定められており(例:5年=60ヶ月)、この期間内に退去した場合は、計算式に基づいて返還金が支払われます。ただし、契約時に一定割合が初期償却(返還対象外となる費用)として設定されている場合もあるため、契約書や重要事項説明書で償却のルールを必ず確認しましょう。
これらの制度は、ご自身から申し出ないと適用されない場合もあります。退去を決めたら、まずは施設の相談員に返還金の有無や金額について確認することが大切です。
原状回復費用の有無と範囲を契約書でチェックする
賃貸住宅と同じように、老人ホームを退去する際にも「原状回復費用」を請求されることがあります。これは、ご入居者の故意や過失によって部屋に傷や汚れをつけた場合に、その修繕費用を負担するというものです。しかし、どこまでがご入居者負担になるのかは注意が必要です。
ご入居者負担となる例
- 壁に物をぶつけて穴を開けてしまった
- タバコのヤニで壁紙が変色した
- 飲み物をこぼしたシミを放置してしまった
施設側負担となるのが一般的(ご入居者負担とならない例)
- 普通に生活する中で生じる壁紙の日焼けや色あせ(経年劣化)
- 家具の設置による床のへこみ(通常損耗)
国土交通省のガイドラインでは、経年劣化や通常損耗による修繕費用は、施設の家賃に含まれるべきものとされています。しかし、施設によっては独自の特約を設けている場合もあります。退去時のトラブルを避けるためにも、入居契約書に記載されている原状回復の範囲を事前に確認し、不明な点があれば施設側に説明を求めましょう。
退去と入居のタイミングを調整し費用の二重払いを避ける
転居において特に注意したいのが、費用の二重払いです。現在の施設の退去日と、新しい施設の入居日がうまく調整できないと、「旧施設の家賃」と「新施設の家賃」を同時に支払わなければならない期間が発生してしまいます。例えば、旧施設の退去予告が「1ヶ月前」で、新施設が「契約後すぐに家賃発生」となる場合、月末に退去届を出しても翌月末までは旧施設の家賃がかかります。その間に新施設の契約をすると、家賃の支払いが重なってしまう可能性があります。このような無駄な出費を避けるためには、
- 新施設の入居日(家賃発生日)を交渉し、調整する。
- 旧施設の退去届を、新施設の入居日に合わせて適切なタイミングで提出する。
この2点が重要になります。ケアマネジャーや紹介センターの担当者にも相談しながら、最適なスケジュールを立てましょう。
転居を決める前にもう一度ご家族で話し合う
転居は、ご本人にとって大きな環境の変化であり、精神的な負担も伴います。また、ご家族にとっても費用面や手続き面での協力が不可欠です。最終的に転居を決定する前には、必ずご本人とご家族、関係者が集まり、全員が納得できるまで話し合う機会を持ちましょう。話し合いでは、以下の点を確認することが大切です。
- 転居の意思
- ご本人が本当に転居を望んでいるか、その気持ちを改めて確認します。
- 新しい施設について
- 見学で得た情報やメリット・デメリットを共有し、全員が新しい施設について理解を深めます。
- 費用負担について
- 新しい施設の費用や退去費用について、誰がどのように負担するのかを明確にします。
- 今後のサポート体制
- 引越しの手伝いや手続きの分担、面会の頻度など、転居後のサポート体制についても話し合っておくと安心です。
全員が同じ情報を共有し、合意の上で転居を進めることが、新しい生活をスムーズにスタートさせるための重要な鍵となります。
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このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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