老人ホームの利用権は相続できる?利用権方式と賃貸借方式の違いや返還金を解説

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「終の棲家」として有料老人ホームや高齢者向け住宅を検討する際、数百万、時には数千万円という高額な「入居一時金」が必要になることがあります。マンションの購入と同じような感覚で、「高いお金を払うのだから、自分が亡くなった後は子供に部屋を相続できるのだろうか?」と疑問に思う方も少なくありません。

結論から申し上げますと、多くの有料老人ホームで採用されている「利用権方式」では、居室そのものを相続することはできません。しかし、入居期間によっては、支払った入居一時金の一部が「返還金」として戻ってきて、そのお金が相続の対象になる場合はあります。

本記事では、老人ホームの契約形態の主流である「利用権方式」の仕組みや、賃貸借方式・分譲方式との違い、そして誰もが気になる「相続」や「お金の返還」に関するルールについて、わかりやすく解説します。

老人ホームの契約形態である利用権方式とは

有料老人ホームへの入居を検討し始めると、パンフレットや重要事項説明書で必ず目にするのが「利用権方式」という言葉です。これは一般的な不動産契約とは少し異なる、高齢者施設特有の契約形態です。まずはその基本的な仕組みを理解しましょう。

利用権方式の定義と基本的な仕組み

「利用権方式」とは、有料老人ホームなどの施設において、居住部分(居室)と共用部分を利用する権利、そして生活支援や介護などのサービスを受ける権利をセットにして契約する形態のことを指します。

終身利用権の取得
一般的に、入居時に「入居一時金(前払金)」を支払うことで、終身にわたりその施設で暮らす権利を得ることができます。

この契約の最大の特徴は、あくまで「利用するための権利」を購入している点にあります。マンションを購入した時のように、土地や建物の「所有権」を手に入れるわけではありません。例えるならば、ゴルフ会員権やスポーツクラブの利用権に近いイメージを持つと分かりやすいでしょう。

施設という「ハード面(建物・設備)」の利用と、介護や食事提供といった「ソフト面(サービス)」の利用が一体となっている契約、それが利用権方式です。

居住部分と介護サービスを一体で契約する特徴

利用権方式では、居室という「住まい」と、介護や生活支援という「サービス」が切り離せない関係にあります。通常の賃貸マンションであれば、部屋を借りる契約と、ヘルパーなどの介護サービスを利用する契約は全く別物であり、それぞれ別の事業者と契約を結ぶのが一般的です。

しかし、利用権方式を採用している「介護付有料老人ホーム」などでは、これらをひとつの契約として結びます。これにより、入居者は以下のようなメリットを享受できます。

継続的なケア
要介護度が重くなった場合でも、同じ施設内で継続して介護サービスを受け続けることができます。
住み替えの柔軟性
身体状況の変化に応じて、施設内の一般居室から介護専用居室へ住み替えるといった対応がスムーズに行われます(※契約内容によります)。

このように、「住まい」と「ケア」が包括されていることが、高齢者にとっての安心感につながっています。

多くの有料老人ホームが利用権方式を採用する理由

現在、日本の有料老人ホームの大多数がこの「利用権方式」を採用しています。これには、運営事業者と入居者の双方にとって合理的な理由があります。

運営事業者側の理由
事業者が建物や設備の所有権を保持したまま運営することで、施設のメンテナンスや大規模修繕、サービスの質を統一して管理しやすくなります。また、入居者が入れ替わる際のリフォームや募集もスムーズに行えます。
入居者側の理由
所有権を持たないため、固定資産税や不動産取得税といった税金がかかりません。また、建物の老朽化に伴う修繕積立金の管理組合運営といった煩わしい手続きも不要です。

「所有」にこだわらず、「安心して最期まで暮らすサービス」を求める現代の高齢者のニーズに合致しているため、この方式が広く普及しているのです。

利用権方式と賃貸借方式および所有権方式の違い

老人ホームや高齢者向け住宅の契約形態には、利用権方式以外にも「建物賃貸借方式」や「終身建物賃貸借方式」、そしてごく一部ですが「分譲方式(所有権方式)」が存在します。それぞれの違いを整理し、ご自身の希望に合った契約形態を知ることが大切です。

建物賃貸借方式および終身建物賃貸借方式との違い

「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」などで多く採用されているのが「建物賃貸借方式」です。これは一般的な賃貸アパートやマンションと同じく、部屋を借りる契約です。

建物賃貸借方式
一般的な「借家契約」です。借地借家法という法律が適用されるため、入居者(借主)の権利が強く守られます。原則として更新が可能で、正当な事由がない限り、事業者側から一方的に退去を迫ることはできません。
終身建物賃貸借方式
都道府県知事の認可を受けた高齢者向けの特別な賃貸借契約です。最大の特徴は、「入居者が亡くなった時点で契約が終了する」という点です。一般的な賃貸借契約では、借主が亡くなると相続人に賃借権が相続されますが、この方式では一代限りの契約となります。

利用権方式との大きな違いは、賃貸借方式では「住まい」の契約のみが主であり、食事や介護などのサービスは別途「サービス利用契約」を結ぶ必要がある点です。

分譲方式(所有権方式)と利用権方式の比較

かつてのリゾート型老人ホームなどに一部見られたのが「分譲方式(所有権方式)」です。これは「分譲マンション」を購入するのと全く同じです。

資産性
不動産として登記されるため、資産になります。子どもに相続させることも、第三者に売却することも、賃貸として貸し出すことも可能です。
コストと手間
不動産取得税や毎年の固定資産税がかかります。また、管理組合の結成や運営に参加する必要がある場合もあります。

利用権方式と比較すると、「資産として残せる」点は大きな魅力ですが、購入時の費用が高額になりがちであることや、施設が古くなった時の資産価値の減少、売却の難しさなどのリスクも考慮する必要があります。現在、新規に開設される老人ホームでこの方式を採用しているところは非常に少なくなっています。

借地借家法の適用有無と居住の権利

契約形態を選ぶ上で非常に重要なのが、「借地借家法」の適用があるかどうかです。

賃貸借方式 適用されます。入居者の居住権が法律で強力に守られています。
利用権方式 原則として適用されません。

「利用権方式だと、施設側の都合で簡単に追い出されてしまうのではないか?」と不安に感じるかもしれません。しかし、現在は老人福祉法などの関連法規や行政の指導指針により、入居者の権利保護が進んでいます。

例えば、正当な理由(長期の入院で施設に戻る見込みがない、著しい背信行為など)がない限り、事業者側から一方的に契約を解除することはできないよう、契約書(重要事項説明書)に厳格なルールが定められています。法的な根拠の違いはありますが、しっかりとした運営会社のホームであれば、利用権方式であっても終身にわたって安心して暮らすことができます。

老人ホームの利用権は相続や譲渡・売買の対象になるか

「数千万円の入居一時金を払ったのだから、この権利は財産だ」と考えるのは自然なことです。しかし、利用権方式における「権利」の取り扱いは、一般的な財産とは大きく異なります。ここでは相続や譲渡に関するルールを解説します。

利用権は一身専属の権利であり相続できない

利用権方式における「利用権」は、法的には「一身専属権(いっしんせんぞくけん)」と呼ばれる権利にあたります。これは、「その人(契約者本人)だからこそ認められた権利」という意味で、他人に譲り渡したり、相続したりすることができない権利のことを指します。

具体的に言うと、契約者であるお父様が亡くなった場合、その居室を利用する権利はお父様の死亡とともに消滅します。

「まだ部屋がきれいだし、契約期間も残っている気がするから、次は子どもである私がそのまま住みたい」と希望しても、それは認められません。もしお子様が入居したい場合は、改めて施設と新規に契約を結び直し、入居一時金を支払う必要があります。つまり、老人ホームの居室(利用権)そのものを遺産として相続することはできません。

家族や第三者への売買や権利譲渡の禁止

前述の通り、利用権は本人に限られた権利であるため、生前に他人に売ったり、譲ったりすることも禁止されています。「急に入院することになってホームに戻れなくなったから、友人にこの権利を格安で譲りたい」といったことはできません。

これは、老人ホームが集団生活の場であり、入居に際して厳格な審査(健康状態、支払い能力、身元引受人の有無など)を行っているためです。契約者以外の人間が、施設側の承諾なしに入れ替わって入居することは、運営上の安全管理の面からも認められていないのです。

夫婦で入居する場合の契約名義と権利の扱い

ご夫婦で同じ部屋(二人部屋)に入居する場合、契約形態にはいくつかのパターンがあります。

夫婦それぞれが契約者となる場合
二人分の入居一時金を支払い、それぞれが利用権を持ちます。どちらか一方が亡くなった場合、亡くなった方の利用権は消滅しますが、配偶者の利用権はそのまま継続するため、引き続き入居し続けることができます。
夫婦のどちらか一方が契約者(代表者)となる場合
施設によっては、代表者1名との契約とし、もう1名は「追加入居者」として扱うケースがあります。この場合、契約者である代表者が亡くなった際に、残された配偶者の権利がどうなるか(再契約が必要か、権利が移行するか)は、契約内容によって大きく異なります。

また、夫婦二人部屋に入居していて、一方が亡くなった後に一人部屋へ移動(住み替え)を求められるケースもあります。ご夫婦での入居を検討されている場合は、「一方が亡くなった後の権利や居室、費用の変更」について、契約前に必ず確認しておくことが重要です。

退去時や死亡時における入居一時金の返還ルール

「利用権そのもの」は相続できませんが、入居時に支払った「入居一時金」の未償却分(使い切っていない分)に関しては、「返還金」として相続の対象になります。これは入居者側の資産を守るための非常に重要な仕組みです。

入居一時金の償却期間と初期償却の仕組み

入居一時金がどのように使われていくかを知るために、「償却(しょうきゃく)」という仕組みを理解しましょう。多くの施設では、以下の計算式で利用料に充当していきます。

初期償却
入居一時金のうち、想定される居住期間を超えて長生きされた場合のリスク備えや、施設の維持管理等のために、入居に際して即座に事業者の収益として計上される部分です。一般的に10%〜30%程度が設定され、返還対象外となります(※短期解約特例を除く)。
償却期間
残りの金額(70%〜90%)を、施設が定めた期間(例えば5年=60ヶ月、7年=84ヶ月など)で均等に割り、毎月の家賃相当額として消化していく期間のことです。この期間は、厚生労働省の指針などを参考に、入居時の年齢や平均余命を考慮して設定されます。

未償却残高がある場合の返還金は相続財産になる

償却期間が終了する前に退去したり、亡くなったりした場合はどうなるのでしょうか。この場合、まだ償却されていない残りの金額(未償却残高)は、入居者(またはその相続人)に返還されなければなりません。

例えば、償却期間が5年の施設に、3年住んで亡くなったとします。この場合、残り2年分の金額はまだ使われていないお金として残っています。このお金は、施設が受け取るのではなく、契約者(故人)の財産とみなされます。

したがって、この「返還金」を受け取る権利(返還金請求権)は相続財産となり、相続人が受け取ることができます。

逆に、償却期間を超えて長生きされた場合、入居一時金の残高は0円になりますが、それ以降も追加の入居一時金を支払うことなく、毎月の管理費や食費などを支払うだけで住み続けることができます。これを「長生きリスクへの備え」と考えることもできます。

短期解約特例制度(90日ルール)による全額返還

入居直後の万が一に備えて知っておきたいのが、「短期解約特例(90日ルール)」です。これは、入居後3ヶ月(90日)以内に契約が終了(死亡退去または生前解約)した場合、初期償却なしで、入居一時金の全額を返還しなければならないという特例ルールです(ただし、実際に入居していた日数分の家賃やサービスの対価は差し引かれます)。

対象 有料老人ホーム(一部を除く)、サービス付き高齢者向け住宅など。
メリット 「施設に入ってみたけれど合わなかった」「入居直後に急な病状悪化で亡くなってしまった」という場合に、高額な初期償却費を取られることなく、お金が戻ってきます。

この制度のおかげで、体験入居のような感覚で本入居をスタートさせやすくなっています。契約時にはこの規定が適用されるかどうかも確認しましょう。

契約トラブルを防ぐための利用権に関する注意点

老人ホームの契約は専門用語が多く、非常に複雑です。後になって「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、特に注意すべきポイントを挙げます。

重要事項説明書で契約終了や解除条件を確認する

契約を結ぶ前に必ず渡される「重要事項説明書」。文字が多くて読むのが大変ですが、ここには最も重要な「契約の終わらせ方」が書かれています。

事業者からの解除条件
どのような場合に施設側から退去を求められるのか。「言動による迷惑行為」「長期の不在」「費用の滞納」など、具体的な条件が記載されています。
入居者からの解約予告期間
自分から退去したい場合、何日前に申し出る必要があるか(通常は30日前など)を確認します。
住み替えの条件
一般居室から介護居室へ移る際の条件や、その時の費用(追加費用の有無、居室面積の変更による利用料の増減)なども確認が必要です。

これらは口頭の説明だけでなく、必ず書面で確認し、不明点はその場で質問することがトラブル回避の第一歩です。

長期入院などの不在時における居室利用権の継続

高齢になると、病気や怪我で長期入院が必要になることもあります。「入院したらすぐに退去させられるのではないか?」という心配もよく聞かれます。

一般的に利用権方式では、入院中であっても毎月の管理費や家賃相当額を支払い続けている限り、居室の利用権は継続されます。つまり、退院後にまたホームに戻ってくることができます。

しかし、入院が3ヶ月や半年以上に及び、医学的に「施設での生活に戻ることは困難」と医師が判断した場合には、施設側と相談の上、契約を終了(退去)する手続きに進むこともあります。「いつまで部屋を確保しておいてもらえるのか」という規定についても、重要事項説明書で確認しておきましょう。

運営会社が倒産した場合の入居一時金保全措置

高額な入居一時金を預けている間に、万が一運営会社が倒産してしまったら、そのお金はどうなるのでしょうか。法律(老人福祉法)では、運営事業者に対して、入居一時金の保全措置を講じることを義務付けています(※一定の要件あり)。

保全措置の内容
銀行や信託会社などの金融機関と連携し、万が一倒産した場合でも、入居一時金の一定額(通常は500万円を上限とするなど)が保証される仕組みです。

しかし、全ての施設で全額が保証されるわけではありませんし、開設時期の古い施設など一部では保全措置が講じられていないケースも稀にあります。入居一時金がどのように守られているか、保全措置の有無と内容についても、契約前に必ず確認してください。

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ここまで解説してきた通り、老人ホームの契約形態や権利関係、お金の返還ルールは非常に複雑です。

「利用権方式と賃貸借方式、どっちが自分に合っているの?」 「この施設の返還金規定は適正なのだろうか?」

パンフレットだけでは分からない細かな契約内容について、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

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このコラムの監修者

花尾 奏一(はなお そういち)

保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士

有料老人ホームにて介護主任を10年 
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施

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