認知症の「実行機能障害」とは?料理や買い物の段取りができない原因と支援方法

認知症の症状は記憶力の低下だけではありません。「料理が作れなくなった」「買い物の段取りができない」といった日常生活のつまずきには、「実行機能障害」という中核症状が深く関わっています。実行機能障害とは、脳の司令塔である前頭葉の機能が低下し、物事を計画し、順序立てて実行することが困難になる状態を指します。本記事では、実行機能障害が起こる原因や具体的な生活場面での困りごと、そしてご本人を支えるための適切なケアと環境づくりのポイントを詳しく解説します。結論として、実行機能障害への対応は「動作の細分化」と「失敗を防ぐ環境の構築」が極めて重要です。在宅での対応に限界を感じる前に、専門家への相談や適切な介護サービスの活用を検討することが、ご本人とご家族の笑顔を守る鍵となります。
認知症の実行機能障害とは
物事の段取りや計画を立てられなくなる症状
認知症における実行機能障害(遂行機能障害)とは、ある目的を達成するために必要な「計画・準備・実行・評価」という一連のプロセスが円滑に進まなくなる症状を指します。私たちは普段、無意識のうちに複数の情報を整理し、優先順位をつけて行動していますが、この高度な脳の働きが阻害されると、日常の些細な動作でも立ち止まってしまうようになります。
例えば、これまでは手際よくこなしていた家事が急にできなくなったり、予定が重なるとパニックになったりする状態は、この実行機能障害が影響している可能性が高いと考えられます。単なる「もの忘れ」とは異なり、何をすべきかは理解していても「どう進めればよいか」という道筋が描けなくなるのが特徴です。厚生労働省の資料においても、認知症の中核症状の一つとして位置づけられており、生活の質に直結する重要な課題です。
実行機能が司る4つのプロセス
- 1. 目標の設定
- これから何を行うかという「ゴール」を明確にする段階です。実行機能障害があると、そもそも何のために今の行動をしているのかが曖昧になることがあります。
- 2. 計画の立案
- 目標達成のために、どのような手順で進めるべきか、何が必要かを考える段階です。物事の優先順位をつけることが難しくなります。
- 3. 計画の実行
- 立てた計画に沿って実際に体を動かし、作業を進める段階です。途中で注意が逸れたり、一つの作業に固執してしまったりすることがあります。
- 4. 効果的な行動の監視(修正)
- 自分の行動が計画通りに進んでいるかを確認し、問題があればやり方を変える段階です。失敗に気づけなかったり、同じ間違いを繰り返したりする様子が見られます。
実行機能と脳の前頭葉の関係
脳の中でも、特におでこの奥にある「前頭葉」、その中でも「前頭前野」と呼ばれる部位が実行機能を司っています。前頭前野は人間を人間たらしめる「脳の司令塔」であり、思考や理性をコントロールする極めて重要な場所です。
アルツハイマー型認知症だけでなく、脳血管性認知症や前頭側頭型認知症など、多くの認知症においてこの前頭葉の機能低下が見られます。加齢による衰えとは異なり、病的に神経細胞が減少したり血流が低下したりすることで、複雑な情報を統合する能力が損なわれていくのです。そのため、身体的には元気であっても、日常生活を自立して送ることが困難になるケースが少なくありません。
実行機能障害により料理や買い物ができない原因
料理の工程や味付けが分からなくなる理由
料理は「実行機能」をフル活用する極めて高度な作業です。献立を考え、複数の食材を同時並行で調理し、味を整えて盛り付けるという一連の流れには、情報の整理能力が不可欠です。実行機能障害が始まると、かつては得意だった料理が、混乱の種へと変わってしまいます。
特に「同時並行作業」の困難さが目立ちます。お湯を沸かしながら野菜を切る、魚を焼きながら味噌汁の味を見る、といった複数の動作を同時に管理できなくなり、どれか一つを忘れて焦がしてしまったり、逆に一つの工程から先に進めなくなったりします。また、味付けの段階で「何をどのくらい入れたか」を忘れてしまい、同じ調味料を何度も入れてしまうこともあります。
献立作成から調理完了までの複雑なステップ
- 1. 冷蔵庫の確認とメニュー決定
- 在庫を把握し、不足分を補いつつ栄養バランスを考えて献立を決めるプロセスです。この段階で決断ができず、立ち尽くしてしまうことがあります。
- 2. 道具と食材の準備
- 必要なものを過不足なく揃えるプロセスです。途中で「まな板がない」などの小さなトラブルが起きると、全体の作業がストップしてしまいます。
- 3. 適切な火加減と時間管理
- 煮込み時間や焼く時間を管理するプロセスです。実行機能障害により時間の感覚が曖昧になると、焦がしたり生焼けになったりするリスクが高まります。
買い物で同じものを何度も買ってしまう理由
買い物において「同じものを重複して買う」「不要なものを大量に買う」という行動も、実行機能障害の典型的な現れです。これは単なる記憶障害だけでなく、「現在の状況を判断し、未来の行動を予測する能力」が低下していることが原因です。
自宅の在庫状況を正確に把握した上で、不足分だけを補うという計画性が失われるため、目の前の視覚情報(特売品など)に反応して条件反射的にカゴに入れてしまいます。また、「予備がないと不安だ」という感情を抑制できず、同じ醤油やマヨネーズが何本もストックされる結果となります。
必要なものの判断や金銭管理の難しさ
- 優先順位の欠如
- 今すぐに必要なものと、そうでないものの区別がつきにくくなります。目的の品を買い忘れ、目に入ったお菓子ばかりを買うといったことが起こります。
- 金銭計算の困難
- レジで適切な小銭を取り出す、お釣りを計算するといった作業が難しくなります。混乱を避けるために紙幣ばかりを使い、財布が小銭で重くなる傾向があります。
- 移動の計画性の喪失
- 店内のどの順路で回れば効率的かを考えられず、同じ売り場を何度も往復してしまい、過度に疲弊してしまいます。
家事の効率が悪くなり一つの動作で止まってしまう
掃除や洗濯などの家事全般において、効率が著しく低下します。実行機能障害がある方は、作業を始める前の「段取り」が組めないため、目の前の小さなゴミに気を取られて部屋全体の掃除が終わらなかったり、洗濯物を干す途中で他のことに意識が逸れてそのまま放置してしまったりします。
また、一つの動作が終わった後に「次に何をすべきか」という信号が脳からスムーズに出ないため、ボーッとして過ごす時間が増えることがあります。これは「やる気がない」のではなく、脳が次のステップを指示できなくなっている状態であることを周囲が理解する必要があります。
実行機能障害がある方への具体的な支援と対応
生活動作を細分化して単純化する環境づくりの工夫
実行機能障害がある方への支援で最も重要なのは、本人の能力に合わせて「一度に処理する情報量を減らす」ことです。複雑な工程を小さく分け、一つひとつを完結させていくスタイルに変更することで、失敗体験を減らし、自尊心を保つことができます。
| 工夫の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 視覚的な補助 | 戸棚に「お皿」「カップ」などのラベルを貼り、探す手間を省く。 |
| 手順の固定 | 作業の順番を写真入りのカードにして、目に見える場所に提示する。 |
| 選択肢の制限 | 「何にする?」ではなく「AとBどっちがいい?」と選択肢を絞って聞く。 |
自立支援に向けたリハビリテーションと適切な声かけ
自立支援の視点では、すべてを代わりにやってあげるのではなく、本人が「できる部分」を残すことが大切です。これを「残存機能の活用」と呼びます。適切なリハビリテーションやデイサービスでの活動を通じて、段取りの一部を担うことで、進行を緩やかにする効果も期待できます。
声をかける際には、一度に多くの情報を伝えないことが鉄則です。「洗濯物を畳んだら、お仏壇に手を合わせて、それからお茶にしましょう」という指示は混乱を招きます。「まずは洗濯物を畳みましょう」と、今の動作に集中できるような短い言葉を選びます。
本人の自尊心を傷つけない見守り方のポイント
- 失敗を責めない
- ミスを指摘するのではなく「一緒にやり直しましょう」と前向きな声かけを行い、安心感を提供します。
- さりげなく先回りする
- 本人が気づく前に必要な道具を並べておくなど、本人が「自分でできた」と感じられるような演出を心がけます。
- 感謝を伝える
- 結果が完璧でなくても、取り組もうとした意欲に対して「助かりました」「ありがとう」と声をかけます。
介護の不安を解消するために専門家へ相談するメリット
在宅介護の限界を感じる前に知っておきたい支援策
実行機能障害を抱える方の介護は、24時間気が抜けない場面が多く、ご家族の精神的・肉体的な負担は非常に大きいものです。特に火の不始末や、外出したまま戻れなくなるといった安全面のリスクが高まると、介護者は常に緊張を強いられます。
ご家族だけで抱え込まず、地域のケアマネジャーや地域包括支援センターに早めに相談することが大切です。介護保険サービスを活用することで、プロの視点による適切なケアが受けられるだけでなく、介護者がリフレッシュする時間を確保できるようになります。
認知症ケアの専門知識を持つ老人ホームの検討
在宅での生活が困難になってきた場合、認知症ケアに特化した老人ホーム(グループホームや有料老人ホーム)への入居を検討することも、ご本人にとっての「最善の選択」となることがあります。
専門施設には、認知症の特性を理解したスタッフが24時間常駐しており、実行機能障害がある方でも安心して過ごせるような環境が整っています。無理に一人で何かをさせようとするのではなく、適切な「見守り」と「手助け」がある環境に移ることで、本人の情緒が安定し、穏やかな笑顔が戻るケースも少なくありません。
笑がおで介護紹介センターへお気軽にご相談ください
関西エリアの老人ホーム探しを全力でサポート
「笑がおで介護紹介センター」は、大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀、三重の関西エリアを中心に、老人ホーム・介護施設のご紹介を行っております。
当センターの相談員は、各施設の認知症ケアの体制やスタッフの専門性を熟知しています。実行機能障害により、ご自宅での生活に不安を感じていらっしゃるご家族に寄り添い、ご本人の状態に最適な「次の住まい」を無料でご提案いたします。
専門の相談員による無料相談のメリット
当センターをご利用いただくことで、以下のようなメリットがあります。
1. 膨大な施設情報からの厳選
関西エリアの多種多様な施設の中から、認知症対応力やご予算に合った場所をプロの視点で選定します。
2. 見学同行と客観的アドバイス
施設見学に同行し、チェックすべきポイントをアドバイスします。ご家族だけでは気づきにくい細かな点もサポートします。
3. 入居後のフォローアップ
入居して終わりではなく、その後の生活についてもご相談いただける体制を整えています。
お電話やメールでのお問い合わせは随時受け付けております。無理な勧誘は一切ございませんので、まずは現状のお困りごとをご相談ください。

このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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