高額医療・高額介護合算療養費制度とは?わかりやすく計算方法や申請手続きを解説

長い人生においては、医療と介護の両方が同時に必要となる時期が訪れることがあります。そのような場合、家計を圧迫する大きな要因となるのが費用の負担です。高額医療・高額介護合算療養費制度は、1年間の医療費と介護費の自己負担額が著しく高額になった世帯に対し、その負担を軽減するために設けられた公的な仕組みです。
本記事では、この制度の仕組みや計算方法、申請のスケジュール、そしてよく混同されがちな医療費控除との違いについて、専門的な知識がない方にもわかりやすく解説します。制度を正しく理解し活用することで、経済的な不安を少しでも解消し、安心して療養や介護サービスを利用できるようにしましょう。
高額医療・高額介護合算療養費制度とはどのような仕組みか
医療費と介護費の自己負担が軽くなる制度をわかりやすく解説
私たちは病気やケガをした時には「医療保険」、介護が必要になった時には「介護保険」を利用し、それぞれ1割から3割の自己負担額を支払ってサービスを受けます。しかし、高齢者世帯などでは、医療と介護の両方のサービスを長期にわたって利用するケースが少なくありません。
高額医療・高額介護合算療養費制度は、同一世帯内で、医療保険と介護保険の両方の自己負担額がかかった場合、それらを合算して計算します。その合計額が、所得などに応じて定められた年間(1年間)の限度額を超えた場合、その超えた金額が後から支給(払い戻し)される制度です。
簡単に言えば、「医療費も介護費もたくさんかかってしまった年は、家計の負担が重くなりすぎないように、払いすぎた分をお返しします」という、セーフティネットの役割を果たしています。
高額療養費制度や高額介護サービス費制度との違い
医療や介護の負担を軽減する制度には、すでに月単位で計算する制度が存在します。これらとの違いを整理することで、合算制度の役割がより明確になります。
| 制度名 | 対象 | 計算期間 |
|---|---|---|
| 高額療養費制度 | 医療費のみ | 1ヶ月単位(月ごとの上限を超えた分を支給) |
| 高額介護サービス費制度 | 介護費のみ | 1ヶ月単位(月ごとの上限を超えた分を支給) |
| 高額医療・高額介護合算療養費制度(本制度) | 医療費 + 介護費 | 1年単位(年間の上限を超えた分を支給) |
つまり、毎月の医療費や介護費については、それぞれの制度で負担軽減が図られますが、それでもなお年間を通して合算すると負担が重い場合に、さらなる軽減措置として適用されるのがこの合算制度です。
制度の対象期間と支給要件
この制度を利用するためには、対象となる期間や条件を満たしている必要があります。
- 計算対象期間
- 毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間にかかった費用が対象です。
- 支給の対象となる世帯
- 計算期間内に、同一世帯で「医療保険」と「介護保険」の両方を利用し、両方の自己負担額が発生している世帯が対象となります。どちらか一方のみの利用の場合は対象外です。
- 支給基準額
- 算出した支給額が500円を超える場合にのみ支給されます。計算結果が500円以下の場合は支給されません。
自己負担限度額の決まり方と計算方法
払い戻される金額を決める自己負担限度額は、年齢や世帯の所得状況によって細かく区分されています。ここでは年齢層ごとの一般的な限度額について解説します。なお、金額は制度改正により変更される場合があるため、正確な金額は各自治体の窓口や厚生労働省の最新情報をご確認ください。
70歳未満の方の自己負担限度額
70歳未満の方の自己負担限度額70歳未満の方がいる世帯の場合、所得区分に応じて以下のように年間の限度額が設定されています。
| 所得区分 | 自己負担限度額(年額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上 (健保:標準報酬月額83万円以上) | 212万円 |
| 年収約770万円~約1,160万円 (健保:標準報酬月額53万~79万円) | 141万円 |
| 年収約370万円~約770万円 (健保:標準報酬月額28万~50万円) | 67万円 |
| 年収約370万円未満 (健保:標準報酬月額26万円以下) | 60万円 |
| 住民税非課税世帯 | 34万円 |
※旧ただし書き所得などの計算が含まれる場合があるため、詳細は加入している医療保険者(健康保険組合や市町村国保)へ確認が必要です。
70歳以上の方の自己負担限度額
70歳以上の方(後期高齢者医療制度の対象者を含む)の区分では、現役世代並みの所得があるかどうかによって限度額が異なります。
| 所得区分 | 自己負担限度額(年額) |
|---|---|
| 現役並み所得者 (課税所得145万円以上など) | 67万円 〜 212万円 ※所得に応じて3段階に分かれます |
| 一般所得者 (年収156万円〜約370万円) | 56万円 (※介護サービス利用者が複数いる世帯の場合は31万円となる軽減措置あり) |
| 低所得者Ⅱ (住民税非課税世帯) | 31万円 |
| 低所得者Ⅰ (住民税非課税世帯かつ所得が一定以下) | 19万円 |
一般所得区分における限度額は、介護保険の負担割合や制度改正に伴い変更されることがありますので、毎年送付される通知書をよく確認することが大切です。
合算の対象とならない費用に注意
医療機関や介護施設に支払った金額のすべてが、この制度の計算対象になるわけではありません。以下の費用は合算対象外となるため、計算時には除外して考える必要があります。
- 入院時の食費・居住費
- 入院中の食事代(標準負担額)や、療養病床に入院した際の居住費(光熱水費相当など)は対象外です。
- 差額ベッド代
- 希望して個室などを利用した場合にかかる差額ベッド代(特別療養環境室料)は、公的保険の対象外となるため計算に含まれません。
- 介護施設の食費・居住費(滞在費)
- 老人ホームや介護老人保健施設などで支払う食費や部屋代は、介護保険給付の対象外となるため、合算制度の対象にもなりません。
- 日常生活費
- 施設での理美容代、新聞代、個人的に購入した物品の費用などは対象外です。
- 高額療養費・高額介護サービス費で支給された分
- すでに月ごとの制度で払い戻しを受けた金額は、自己負担額から差し引いて計算します。
申請から支給までの手続きとスケジュール
この制度は、対象となる可能性が高い方にお知らせが届くことが一般的ですが、自動的に振り込まれるわけではありません。適切な手続きを行う必要があります。
申請手続きに必要なものと提出先
申請の窓口は、基準日(7月31日)時点で加入している「医療保険(市町村国保、後期高齢者医療制度、会社の健康保険組合など)」の窓口です。一般的に国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している場合は、お住まいの市町村役場が窓口となります。
- 主な必要書類
- 高額介護合算療養費等支給申請書兼自己負担額証明書交付申請書、介護保険の被保険者証、医療保険の被保険者証、振込先口座がわかるもの(通帳など)、マイナンバーがわかる書類および本人確認書類 ※自治体によって印鑑が必要な場合や、郵送での手続きが可能な場合があります。
お知らせの通知はいつ届くのか
国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している方で、支給対象となる見込みがある世帯には、各自治体から翌年の1月から2月頃にかけて、申請に関するお知らせ(勧奨通知)と申請書が送付されるのが一般的です。
ただし、会社の健康保険組合などに加入している場合は、自分から申請書を取り寄せる必要があるケースもあります。また、計算期間中に引っ越しをして保険者が変わった場合などは、以前の保険者から「自己負担額証明書」を取り寄せて、現在の保険者に提出する必要があるため注意が必要です。
申請してからお金はいつ戻ってくるのか
申請書を提出してから実際に指定口座にお金が振り込まれるまでには、審査や計算の都合上、時間がかかります。
一般的には、申請から約3ヶ月〜4ヶ月後に支給決定通知が届き、その後振り込みが行われるケースが多いです。例えば、2月に申請した場合、支給されるのは5月や6月頃になることが想定されます。即座に入金されるものではないことを理解し、気長に待つ必要があります。
高額医療・高額介護合算療養費制度と医療費控除の違い
「医療費や介護費が戻ってくる」という点で混同しやすいのが、確定申告で行う医療費控除です。これらは全く別の仕組みであり、併用することも可能です。
制度の目的と還付の仕組みの違い
それぞれの制度の決定的な違いは、「保険からの給付」か「税金の軽減」かという点です。
| 項目 | 高額医療・高額介護合算療養費制度 | 医療費控除(確定申告) |
|---|---|---|
| 制度の性質 | 社会保険の給付 | 税金の控除 |
| 戻り方 | 払いすぎた医療・介護費が、現金で口座に振り込まれます。 | 課税対象となる所得を減らすことで、結果的に納めすぎた所得税が戻ったり、翌年の住民税が安くなったりします。 |
| 対象者 | 年間の自己負担額が限度額を超えた世帯 | 年間10万円(または所得の5%)以上の医療費を支払った納税者 |
確定申告での併用と申告の順序
両方の制度を利用する場合、計算の順序が非常に重要です。医療費控除の計算をする際には、「補てんされる金額」として、高額医療・高額介護合算療養費制度で支給された金額を、支払った医療費から差し引く必要があります。
- まず、高額医療・高額介護合算療養費制度の支給額を確定させる(または見込み額を計算する)。
- 確定申告の医療費控除の明細書を作成する際、支払った医療費の合計から、1で受け取った(受け取る予定の)支給額をマイナスする。
- その残額をもとに控除額を計算し、税務署へ申告する。
もし、先に確定申告を済ませてしまい、後から合算療養費の支給が判明した場合は、修正申告が必要になることがあります。制度の通知時期と確定申告の時期(2月〜3月)が重なるため、通知が間に合わない場合は、自治体に支給見込額を確認するか、後日修正申告を行う等の対応が必要になります。
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このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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