認知症の被害妄想への対応|「物盗られ妄想」などの原因と正しい接し方

「私の財布を盗んだでしょう!」「家族からいじめられている」。認知症の方の介護で、このような被害妄想にどう対応すればよいか分からず、心を痛めているご家族は少なくありません。特に、毎日一生懸命介護している身近な人が疑われる「物盗られ妄想」は、介護する側にとって非常につらい症状です。
しかし、これらの言動はご本人の悪意から来るものではなく、認知症という病気が引き起こす症状の一つです。その根底には、記憶が失われていくことへの「不安」や「混乱」が隠されています。
この記事では、認知症の代表的な症状である被害妄想、特に「物盗られ妄想」について、その原因と正しい対応のポイントを詳しく解説します。やってはいけないNG行動や、症状を和らげるためのヒントを知ることで、介護する方の心の負担を軽くし、ご本人と穏やかに向き合うための一助となれば幸いです。
認知症の被害妄想とは?原因と見られやすい時期
認知症の被害妄想は、実際には起きていないことを事実だと信じ込み、「誰かに危害を加えられている」「物を盗られた」などと訴える症状です。これは、認知症の症状の中でも、ご家族や介護者を特に悩ませる症状の一つです。
記憶障害と不安から生まれるSOSのサイン
認知症になると、脳の機能低下によって直接引き起こされる記憶障害や判断力の低下といった「中核症状」が現れます。そして、この中核症状を核として、ご本人の元々の性格、不安や焦りといった心理状態、周囲の環境や人間関係などが複雑に影響し合って現れるのが「行動・心理症状(BPSD)」です。被害妄想は、このBPSDの代表的な症状なのです。
被害妄想が生まれる最も大きな原因は、中核症状である「記憶障害」です。例えば、自分で財布をしまい込んだことを忘れてしまい、「財布がない」という事実だけが残ります。このとき、ご本人は「忘れた」とは考えず、つじつまを合わせるために「誰かに盗られたに違いない」と、無意識に物語を作り上げてしまいます。これが被害妄想の正体であり、その背景には、記憶力や判断力が低下していくことへの言いようのない「不安」や「焦り」、そして「孤独感」が深く関わっています。
被害妄想は認知症の初期から中期に見られやすい
物盗られ妄想などの被害妄想は、認知機能がある程度保たれている認知症の初期から中期にかけて現れやすいとされています。自分の状況がある程度理解できるからこそ、できなくなることが増える現実とのギャップに苦しみ、不安から妄想という形でSOSを発しているのです。
一般的に、認知症がさらに進行し、物事への関心自体が薄れてくると、症状は自然と落ち着いてくることが多いと言われています。
認知症による被害妄DHA・EPA(オメガ3系脂肪酸)想の主な種類と具体例
被害妄想にはいくつかのパターンがあります。代表的なものを知っておきましょう。
物盗られ妄想:「財布や大切なものを盗まれた」
最も頻繁に見られる被害妄想で、財布や通帳、貴金属など、本人にとって大切なものが対象になりやすいのが特徴です。
そして、犯人として疑いの目を向けられるのは、皮肉にも毎日介護をしている配偶者や子、お嫁さんなど、最も身近で接する時間の長い人であることがほとんどです。これは、ご本人にとって最も関わりが深く、記憶に残りやすい存在だからです。また、甘えや依存心から、何でも言える相手に助けを求める気持ちが、攻撃的な言葉として現れてしまうこともあります。
見捨てられ妄想:「家族から見捨てられる、邪魔にされる」
「家族が私の悪口を言っている」「邪魔者扱いされている」「施設に追い出される」など、家族から見捨てられるのではないかという強い不安を訴える妄想です。ご自身の能力の低下による自信喪失や、社会的な役割を失ったことによる孤立感が原因となっていることがあります。
対人関係の妄想や人物誤認
「近所の人に悪口を言われている」「夫が浮気をしている」といった対人関係の妄想や、「家に知らない人がいる」と家族を他人と誤認してしまうこともあります。特にレビー小体型認知症では、人物の誤認が起こりやすいとされています。
認知症の被害妄想への正しい対応5つのポイントとNG行動
ご家族の被害妄想に直面すると、つい感情的になってしまいがちです。しかし、対応の仕方一つで、ご本人の状態は大きく変わります。
【NG行動】頭ごなしの否定・無視・説得
最もやってはいけない対応は、「そんなわけないでしょう!」「誰も盗ってないよ!」と、ご本人の訴えを頭ごなしに否定することです。ご本人にとっては、妄想が「真実」なのです。それを否定されると、「誰も信じてくれない」と孤独感を深め、さらに頑なになって症状が悪化してしまいます。同様に、「また始まった」と無視したり、理詰めで説得しようとしたりするのも逆効果です。
【ポイント1】まずは話に耳を傾け、気持ちに共感する
正しい対応の第一歩は、ご本人の訴えを否定せず、まずはじっくりと話を聞くことです。そして、「お財布がなくなって、さぞ心配でしょう」「それは大変ですね」と、盗られたという事実ではなく、ご本人の「困っている」「不安だ」という気持ちに寄り添い、共感を示しましょう。まずはご本人の世界観をありのままに受け入れ、気持ちを理解しようとする姿勢が大切です。これだけで、ご本人は「分かってもらえた」と安心し、興奮が収まることがあります。
【ポイント2】一緒に探すなどの行動で安心感を与える
物盗られ妄想の場合、「一緒に探しましょう」と行動で示すのが非常に有効です。このとき、介護者が先に見つけるのではなく、「もしかして、この引き出しではないですか?」とご本人に見つけてもらうように誘導するのがポイントです。ご自身で見つけることで、「あった、良かった」と納得し、安心することができます。万が一見つからなくても、「見つからなくて残念でしたね。もう少し後でまた探してみましょう」と気持ちを切り替えるように促しましょう。
【ポイント3】話題を変えて気分転換を促す
ご本人の気持ちが少し落ち着いたら、上手に関心を別のことにそらしてみましょう。「そういえば、お好きなおまんじゅうがありますよ。お茶にしませんか?」「天気がいいから、少しだけ外を歩いてみませんか?」など、ご本人が好きそうなことで誘い、気分転換を図るのが効果的です。
【ポイント4】介護者も適度に距離を取り、休息する
どんなに病気の症状だと分かっていても、毎日攻撃的な言葉を浴びせられるのはつらいものです。介護者が疲れ果ててしまっては、共倒れになりかねません。つらいときは、別の人に介護を代わってもらったり、デイサービスやショートステイを利用したりして、意識的にご本人と距離を置き、自分のための時間を持つことが非常に重要です。介護者が心身ともに健康で、穏やかな気持ちで接することが、結果的にご本人の安心につながります。罪悪感を感じる必要は全くありません。
【ポイント5】一人で抱え込まず、専門機関に相談する
被害妄想への対応は、家族だけで抱え込まず、必ず専門家を頼りましょう。かかりつけ医のほか、地域の「ケアマネジャー」や「地域包括支援センター」などに相談すれば、介護のプロを味方につけることができます。具体的なアドバイスをもらえたり、利用できるサービスを紹介してもらえたりするだけでなく、介護者のつらい気持ちを聞いてもらうだけでも、心は軽くなるはずです。
認知症の種類による妄想の特徴
妄想の現れ方は、認知症の原因疾患によっても特徴があります。
- アルツハイマー型認知症
- 記憶障害が中核的な症状であるため、「物を置いた場所を忘れる」ことから始まる「物盗られ妄想」が最も多く見られます。
- レビー小体型認知症
- 実際にはないものが見える「幻視」が特徴的な症状です。そのため、「知らない男の人が部屋に入ってきて、物を盗んだ」というように、幻視と結びついた具体的な妄想が現れることがあります。
認知症の被害妄想に対する薬物療法という選択肢
ご家族の対応や環境調整といった非薬物的なアプローチを試みることが大原則です。しかし、それでも症状が改善せず、ご本人や介護者の生活に大きな支障が出ている場合は、薬物療法が検討されることがあります。
妄想や興奮を抑える効果のある「非定型抗精神病薬」や、気分の安定を図る漢方薬(抑肝散など)が用いられることがあります。これらの薬は、妄想を完全になくすものではありませんが、症状を和らげ、ご本人やご家族の負担を軽減する効果が期待できます。
ただし、これらの薬には、眠気やふらつき、意欲の低下といった副作用のリスクもあります。そのため、薬物療法を行うかどうかは、認知症の専門医がご本人の状態を慎重に見極めた上で判断します。薬物療法は、あくまで補助的な選択肢と捉え、ご家族だけで判断せず、必ず医師に相談しましょう。
被害妄想と「せん妄」「幻覚」との違い
認知症の症状には、被害妄想と混同されやすいものがあります。違いを理解しておきましょう。
| 症状 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 妄想 | 思考の障害。誤った内容だと訂正できない強い思い込み。 | 意識は比較的はっきりしている。話のつじつまは合っているように聞こえることがある。 |
| 幻覚 | 感覚の障害。実際にはないものを、あるかのように感じる(幻視、幻聴など)。 | 本人にとっては現実の体験。レビー小体型認知症で幻視が起こりやすい。 |
| せん妄 | 意識の障害。注意力や思考力が急に低下し、意識が混濁した状態。 | 症状は急に現れ、1日の中でも変動する。幻覚や妄想を伴うことがある。 |
せん妄は、薬の副作用や脱水、感染症、便秘や痛みといった身体的な不調、環境の急な変化などが原因で起こる、一時的な意識障害です。原因を取り除くことで改善する可能性がある点が、進行性の病気である認知症とは異なります。
在宅での介護が難しい場合の老人ホームという選択肢
被害妄想の症状が強く、ご家族の心身の負担が限界に達してしまった場合、在宅での介護を続けることが困難になることもあります。そのような時は、専門的なケアが受けられる老人ホームへの入居も大切な選択肢の一つです。
認知症ケアに特化したグループホーム
認知症の診断を受けた方が、5~9人の少人数単位で共同生活を送る施設です。家庭的な雰囲気の中、顔なじみのスタッフや入居者と関わることで、精神的に安定しやすく、妄想などの症状が落ち着くケースも少なくありません。
手厚い介護が受けられる介護付き有料老人ホーム
24時間体制で介護スタッフが常駐し、手厚い介護サービスを受けられる施設です。認知症ケアに力を入れている施設も多く、専門的な知識を持ったスタッフによる適切な対応が期待できます。施設によっては、認知症ケアに関する専門的な研修を受けたスタッフを配置したり、落ち着いた環境で過ごせるようなフロアを設けたりするなど、手厚い対応を行っています。看護師が常駐している施設も多く、医療的なケアが必要な方でも安心です。
生活の自由度が高い住宅型有料老人ホーム
食事や見守りなどの生活支援サービスが付いた住まいです。介護サービスは、必要に応じて外部の事業所と契約して利用します。比較的お元気な方向けの施設が多く、症状の程度によっては、より専門的なケア体制のある施設が適している場合もあります。
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認知症の被害妄想は、ご本人からのSOSのサインです。しかし、そう分かっていても、対応に悩み、心が折れそうになる日もあるでしょう。そんな時は、決して一人で抱え込まないでください。
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「笑がおで介護紹介センター」では、介護の専門知識と豊富な経験を持つ相談員が、無料で皆様のお悩みをお伺いします。被害妄想への対応方法から、利用できるサービス、施設選びまで、どんなことでも親身になってご相談に乗ります。
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このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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