認知症やせん妄の症状で病院から退院を促されたら?理由と相談先、退院後の選択肢を解説

「入院中の親が暴れたり大声を出したりして、病院から退院してほしいと言われてしまった…」
治療のために入院したはずなのに、突然の退院勧告を受けると、ご家族は戸惑い、パニックになってしまうのではないでしょうか。
しかし、病院から退院を促されたからといって、何の準備もないまま明日すぐに自宅へ連れて帰らなければならないわけではありません。
この記事では、認知症の周辺症状(BPSD)や「せん妄」によって退院を求められる病院側の事情から、両者の違い、そして退院を迫られた時にご家族が真っ先にとるべき相談先と次の選択肢について、介護施設の専門家が分かりやすく解説します。
【この記事のポイント:退院を言われたらやるべきこと】
- 焦らず病院の「医療相談室(医療ソーシャルワーカー)」に相談する。
- 認知症の進行なのか、一時的な「せん妄」なのかを医師に確認する。
- 自宅での介護が難しい場合は、プロの力を借りて「老健」や「介護施設」などの受け入れ先を探す。
なぜ認知症やせん妄が原因で病院から退院を促されるのか?
病気やケガの治療が終わっていないのに退院を勧められる背景には、一般的な病院(急性期病院)が担う役割と、集団生活における「安全確保の限界」が関係しています。
病院は「治療」の場であり「生活」の場ではない
多くの病院は、緊急のケガや病気を治療するための場所です。容態が安定すれば、新たに重症な患者を受け入れるために病床(ベッド)を空ける必要があります。長期的な療養や生活支援を行う場所としては設計されていません。
認知症やせん妄による「安全確保の困難さ」
本来の病気が回復傾向にあっても、認知症の症状やせん妄による混乱が強く出ると、以下のようなリスクが生じます。
- 自分で点滴の管を引き抜いてしまう
- 徘徊して転倒したり、病院の外へ出てしまったりする
- 大声を出して他の患者の安静を妨げる
病院では、スタッフが一人の患者に24時間つきっきりになることは不可能です。そのため、「当院ではこれ以上、安全な治療と管理の継続が難しい」と判断された場合、退院や専門病院への転院を打診されることになります。
病院での対応が難しい認知症の「BPSD(行動・心理症状)」とは
認知症の症状は、記憶障害や判断力の低下といった「中核症状」と、本人の性格や環境、人間関係などが影響して起こる「BPSD(行動・心理症状)」に大別されます。このうち、病院での集団生活や治療の継続を困難にさせ、退院の要因となりやすいのがBPSDです。
ここでは、病院側が対応に苦慮する代表的なBPSDの症状を解説します。
徘徊
症状
ご本人の意思とは関係なく、明確な目的もなく院内を歩き回ったり、気付かないうちに病院の外へ出てしまったりする行動です。
病院での困難さ
病院は多くの病室や検査室があり構造が複雑です。多数の人が出入りするため、職員が24時間体制で一人の患者だけを見守り続けることは物理的に不可能です。徘徊によって他の病室や危険な場所へ立ち入ったり、最悪の場合、無断で院外に出て行方不明になったりするリスクがあり、安全確保が極めて困難になります。
大声・暴言
症状
理由もなく大声で叫び続けたり、他の患者やスタッフに対して攻撃的な言葉を投げかけたりする症状です。
病院での困難さ
病院は、多くの患者が静かな環境で療養している場所です。大声や騒音は、他の患者の安静を妨げ、心身の回復に悪影響を及ぼす可能性があります。また、治療やケアを行おうとするスタッフへの暴言は、円滑な医療行為の妨げにもなります。
暴力行為・介護拒否
症状
自分の思い通りにならないことへの不満や、治療への不安感、幻覚や妄想などが原因で、スタッフや他の患者に対して手を出してしまう行為です。また、食事や服薬、入浴といった必要なケアを頑なに拒否することもあります。
病院での困難さ
暴力行為は、スタッフや他の患者の安全を直接的に脅かす非常に危険な行為です。医療スタッフも身の危険を感じながらケアを行うことになり、十分な医療の提供が難しくなります。また、介護拒否が続くと、ご本人の栄養状態の悪化や衛生状態の低下、必要な治療が受けられないといった深刻な事態につながります。
これらのBPSDは、ご本人に悪気があるわけではなく、認知症という病気が引き起こす症状です。しかし、専門的な知識や対応スキルを持つスタッフでなければ適切な対処は難しく、病院全体の秩序や他の患者の安全を守るために、退院を検討せざるを得ない状況が生まれてしまうのです。
突然の混乱は「せん妄」かも?認知症との違い
入院中の高齢者に見られる混乱した言動が、必ずしも認知症のBPSDとは限りません。「せん妄」という別の状態である可能性も考慮する必要があります。
せん妄とは
入院という環境変化、手術のストレス、薬の副作用、身体的な苦痛(発熱や脱水など)が引き金となって起こる、急性の意識障害(一時的な脳のパニック状態)です。
「虫が見える(幻視)」と言ったり、急に怒り出したりします。
【比較表】認知症とせん妄の違い
| 項目 | 認知症 | せん妄 |
|---|---|---|
|
発症の仕方 |
数ヶ月~数年かけ、ゆっくり進行する | 数時間~数日の単位で、急激に発症する |
| 症状の変動 | 一日の中での変動は比較的少ない |
1日のうちで変動が激しい |
| 主な原因 | 脳の病的な変化 (神経細胞の減少など) |
身体的・精神的なストレス (環境変化、手術、薬など) |
| 回復の可能性 | 進行を遅らせることは可能だが、根本回復は困難 | 原因が取り除かれれば、元に戻る可能性が高い |
せん妄は、原因となっている身体的ストレスが解消されたり、住み慣れた環境に戻ったりすることで改善するケースが多いです。
まずは医師に、現在の状態が「認知症の進行」なのか「せん妄」なのかを確認しましょう。
退院を促されたときに起こりうる問題
病院から退院を促されたご家族は、精神的なショックとともに、次のような現実的な問題に直面することが少なくありません。
転院先がすぐに見つからない
BPSDの症状が強い場合、受け入れてくれる他の一般病院を見つけるのは容易ではありません。認知症ケアに対応できる精神科病院や、長期療養が可能な療養病床を持つ病院も選択肢となりますが、すぐに空きがあるとは限らず、入院待ちとなるケースも珍しくありません。
入居できる介護施設が見つからない
退院後の生活の場として介護施設を検討しても、徘徊や暴力行為といったBPSDの症状を理由に入居を断られてしまうことがあります。施設側も、他の入居者とのトラブルや、スタッフの対応能力を超えてしまうことを懸念するためです。特に、医療的ケアの必要性が高い場合は、受け入れ可能な施設がさらに限られます。
在宅介護の準備が整わない
「それならば自宅で」と考えても、急な退院決定では準備が間に合いません。介護ベッドや車椅子といった福祉用具の手配、手すりの設置などの住宅改修、訪問介護やデイサービスといった介護保険サービスの契約など、在宅介護を始めるには多くの準備と時間が必要です。また、ご家族の仕事の調整や介護の役割分担など、生活そのものを見直す必要も出てきます。
これらの問題は、ご家族だけで解決しようとすると大きな負担となります。だからこそ、一人で抱え込まず、専門家の力を借りることが不可欠です。
退院が決まったら、まずは落ち着いて専門家へ相談を
突然の退院勧告に動揺するのは当然ですが、まずは落ち着いて、利用できる相談窓口へアクセスすることが解決への第一歩です。退院後の生活を支えてくれる専門家は必ずいます。
病院の「医療相談室(医療ソーシャルワーカー)」
- 相談できること
- まず最初に相談すべき場所が、入院している病院内にある「医療相談室」や「患者サポートセンター」です。そこに在籍する医療ソーシャルワーカーは、保健医療分野の知識を持つ相談援助の専門職です。転院可能な病院の情報提供や連携、介護施設探し、利用できる介護保険サービスや公的制度の案内など、退院に関するあらゆる相談に応じてくれます。
お住まいの地域の「地域包括支援センター」
- 相談できること
- 地域包括支援センターは、市区町村が設置する高齢者のための総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が配置されており、介護に関する相談や介護保険の申請支援、地域の介護サービス事業所の紹介まで幅広く対応しています。退院後の生活を地域で支えるための拠点となる場所です。
専門医療機関「認知症疾患医療センター」
- 相談できること
- 認知症疾患医療センターは、都道府県や指定都市が指定する専門の医療機関です。認知症の鑑別診断や治療方針の決定、BPSDへの対応方法について、専門的な医療相談が可能です。かかりつけ医や病院からの紹介が必要な場合もありますが、今後の治療やケアの方針について、より専門的なアドバイスを受けることができます。
これらの相談窓口は、それぞれが連携を取り合っています。まずは、最も身近な病院の医療ソーシャルワーカーに「困っている」と伝えることから始めましょう。そこから必要な支援へと繋がっていきます。
退院後の選択肢と準備すべきこと
専門家と相談しながら、ご本人とご家族にとって最適な退院後の生活を具体的に検討していきます。主な選択肢は「在宅介護」「施設入居」「他の病院への転院」の3つです。
在宅介護を選択する場合
住み慣れた自宅で暮らし続けたいというご本人やご家族の希望を叶える選択肢です。ただし、ご家族の負担を軽減し、安全な生活を送るためには、事前の準備が欠かせません。
介護保険サービスの活用
ケアマネジャーと相談し、以下のようなサービスを組み合わせたケアプランを作成します。
- 訪問介護(ホームヘルプ)
- ホームヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴、排泄などの「身体介護」や、掃除、洗濯などの「生活援助」を行います。
- 通所介護(デイサービス)
- 施設に通い、食事や入浴などのサービスを受けたり、レクリエーションや機能訓練に参加したりします。ご本人の心身機能の維持向上や、ご家族の介護負担軽減(レスパイト)につながります。
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 施設に短期間宿泊し、介護サービスを受けられます。ご家族の休息(レスパイトケア)や、冠婚葬祭などで一時的に介護ができない際に利用できます。
住環境の整備
ご本人が安全に暮らせるよう、住環境を整えることも重要です。
- 福祉用具のレンタル・購入
- 介護ベッド、車椅子、歩行器などを介護保険を利用してレンタル・購入できます。(※品目によりレンタル・購入の対象が異なります)
- 住宅改修
- 廊下やトイレへの手すりの設置、床の段差解消、和式トイレから洋式トイレへの変更など、介護保険を利用して住宅改修費の助成を受けることができます。
認知症に対応可能な施設への入居を検討する場合
24時間体制での見守りや専門的なケアが必要な場合、介護施設への入居が有効な選択肢となります。認知症の方を受け入れている代表的な施設には、以下のような種類があります。
認知症でも入居しやすい施設の種類
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
- 認知症の診断を受けた高齢者が、5~9人の少人数単位で共同生活を送る施設です。家庭的な雰囲気の中で、専門スタッフの支援を受けながら、料理や掃除などの役割を分担して自立した生活を目指します。
- 介護付き有料老人ホーム
- 食事や清掃などの生活支援から、入浴や排泄などの身体介護まで、24時間体制で幅広いサービスを受けられる施設です。看護師が日中常駐している施設も多く、医療的ケアが必要な方や看取りに対応している施設もあります。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 社会福祉法人などが運営する公的な施設で、原則として要介護3以上の方が入居対象です。費用が比較的安価なため人気が高く、地域によっては待機者が多いという実情があります。
施設選びで確認したいポイント
施設見学などの際には、以下の点を確認しましょう。
- 認知症ケアに関する研修の実施状況
- 入居者一人ひとりの状態に合わせた個別ケアプランの作成
- BPSD(行動・心理症状)への対応方針や過去の実績
- 看護師の配置時間や、協力医療機関との連携体制
- 看取りへの対応方針
他の病院へ転院する場合
現在の病院での治療は終了しても、引き続き医療的な管理やリハビリが必要な場合は、他の病院へ転院するという選択肢もあります。長期的な療養が可能な「療養型病院(療養病床)」や、認知症の精神症状の治療を専門とする「精神科病院」などが主な転院先となります。どの病院が適切かについては、現在の主治医や医療ソーシャルワーカーと十分に相談して決めることが重要です。
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まとめ
認知症の症状が原因で病院から退院を促されるのは、病院が急性期疾患の「治療の場」であり、長期的な生活や専門的な認知症ケアを行う場所ではないためです。特に、徘徊や暴力といったBPSDは、病院での集団生活や安全確保を困難にするため、退院の要因となり得ます。
突然の退院勧告に直面しても、決して一人で抱え込まないでください。まずは病院の医療ソーシャルワーカーに相談し、地域包括支援センターなどの専門機関と連携することが大切です。
退院後の選択肢には、介護サービスを活用した「在宅介護」、専門的なケアが受けられる「施設入居」、医療が必要な場合の「転院」などがあります。ご本人とご家族にとって最善の道を見つけるために、この記事でご紹介した情報が少しでもお役に立てれば幸いです。

このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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