【介護の悩み】認知症の食事トラブル|原因別の対応と食事介助のコツ

認知症の方の介護において、「食事」に関する悩みは尽きません。「せっかく作ったのに食べてくれない」「さっき食べたばかりなのに、また食事を欲しがる」「食べ物ではないものを口に入れようとする」など、予測不能なトラブルに、多くのご家族が戸惑い、疲れを感じています。食事は、生命を維持するだけでなく、日々の楽しみや生活リズムを作る大切な時間です。だからこそ、うまくいかないと介護する側のストレスも大きくなってしまいますよね。認知症の方の食事トラブルには、単なる「わがまま」や「好き嫌い」ではなく、認知機能の低下や身体的な問題など、ご本人なりの切実な理由が隠されています。その原因を正しく理解し、一人ひとりに合った対応を見つけることが、解決への第一歩となります。この記事では、「食べない」「食べ過ぎる」「異食」という3つの代表的な食事トラブルについて、その原因と心理を詳しく解説し、今日から実践できる具体的な対応策や食事介助のコツをご紹介します。この記事を読めば、食事の時間がご本人にとってもご家族にとっても、少しでも穏やかで安心できるものになるはずです。
【食事トラブル①】食事を拒否する・食べない(拒食・食欲不振)
栄養を摂ってもらうために心を込めて用意した食事を、一口も食べてくれなかったり、途中でやめてしまったりする「食事拒否」。ご家族にとっては、心配と徒労感でつらくなってしまう状況です。まずは、その背景にある原因を探ってみましょう。
食事を拒否する原因と心理
ご本人が食事を拒否するには、身体的な問題から心理的なものまで、様々な原因が考えられます。
食べ物や食器を認識できない
認知症の症状の一つに「失認(しつにん)」があります。これは、視力には問題がないのに、目の前にあるものが何なのかを認識できなくなる症状です。例えば、ご飯やおかずが「食べ物である」と認識できなかったり、お箸やスプーンが「食事に使う道具である」と理解できず使い方がわからなくなったりします。また、白いご飯が白いお皿に載っていると、色のコントラストが弱く、そこに食べ物があると認識しにくいこともあります。ご本人にとっては、目の前に得体の知れないものが並んでいるように感じられ、不安や混乱から食事を拒否してしまうのです。
口内トラブルや体調不良
言葉でうまく不調を訴えられないため、食事拒否という形でSOSサインを出している可能性もあります。「食べたくない」のではなく、「痛くて食べられない」「気分が悪くて食べられない」のかもしれません。
- 口腔内の問題
- 虫歯、歯周病、口内炎、入れ歯(義歯)の不具合など、口の中に痛みや違和感がある状態。
- 嚥下障害(えんげしょうがい)
- 食べ物を飲み込む機能が低下し、むせたり喉につかえたりするため、食べること自体に恐怖を感じている状態。
- 体調不良
- 便秘、発熱、倦怠感(けんたいかん)、薬の副作用による吐き気など、全身の不調で食欲が湧かない状態。
集中力が続かない・食事に興味がない
認知症の方は、注意力が散漫になりやすく、一つのことに集中し続けるのが難しくなることがあります。例えば、テレビがついていたり周りが騒がしかったりすると食事に集中できず、生活リズムの乱れから空腹感を感じにくくなることもあります。また、活動量の減少でお腹が空かなかったり、うつ的な症状(アパシー)により、あらゆることへの興味や関心が薄れ、食事への意欲そのものが失われてしまったりすることもあります。
食事拒否への対応策と工夫
原因に合わせて、食事を楽しめるような環境づくりや献立の工夫を試してみましょう。
食事に集中できる環境を整える
まずは、ご本人が食事に意識を向けられる環境を作りましょう。
- 静かな環境
- 食事中はテレビを消し、落ち着いた静かな環境を整えます。食事に関係のないものはテーブルの上から片付けましょう。
- 食事時間の合図
- 「お昼ご飯の時間ですよ」と声をかけたり、ランチョンマットを敷いたりして、今から食事の時間であることを明確に伝えます。
- 生活リズム
- できるだけ毎日同じ時間に食事を摂るようにし、日中は散歩などで軽く体を動かす機会を作ると、空腹感を感じやすくなります。
食べやすい献立や調理法を工夫する
ご本人の噛む力(咀嚼能力)や飲み込む力(嚥下能力)に合わせた食事形態の工夫も重要です。料理の彩りを良くしたり、出汁の香りを効かせたりするなど、五感を刺激して食欲を促す工夫も有効です。
| 課題 | 工夫のポイント | 具体例 |
|---|---|---|
| 噛む力が弱い | 柔らかく煮込む、細かく刻む | 煮込みうどん、野菜の煮物、ひき肉を使ったあんかけ |
| 飲み込みにくい | 片栗粉や市販のとろみ剤でとろみをつける | お茶や汁物にとろみをつける、あんかけ料理 |
| むせやすい | パサパサしたものは避ける、適度な水分でまとめる | パン粥、マヨネーズ和え、おひたし |
| 食欲がない | 少量でも栄養価の高いもの、好きな味付け | 茶碗蒸し、ポタージュスープ、ご本人の好物 |
好きな食器を使い、食事の時間を楽しく演出する
食事が「作業」にならないよう、楽しい時間として演出することも大切です。例えば、ご本人が昔から愛用していたお茶碗を使ったり、お皿の色を食材と反対色にして食べ物を認識しやすくしたりする工夫ができます。「美味しそうですね」と声をかけながらご家族も一緒に食事を楽しむ姿勢も大切です。時には、好物のお寿司の出前を取るなど、特別な食事で気分を変えるのも良いでしょう。これらの工夫で、ご本人の「食べたい」という気持ちを引き出すことを目指しましょう。
【食事トラブル②】食べたことを忘れる・食べ過ぎる(過食)
食事をしたばかりなのに、「ご飯はまだ?」と何度も催促される過食。健康への影響も心配になり、対応に苦慮するケースです。この背景にも、認知症特有の原因があります。
過食の原因と心理
満腹中枢の機能低下
脳の視床下部には、空腹感や満腹感をコントロールする「満腹中枢」があります。認知症によってこの満腹中枢の働きが鈍ると、いくら食べても満腹感が得られず、「まだお腹が空いている」と感じて食べ物を求め続けてしまうことがあります。
食事をしたこと自体の記憶がない
記憶障害により、食事をしたという出来事そのものを忘れてしまっているケースです。ご本人にとっては、本当に食事をしていないため、「お腹が空いた」と訴えるのは当然のことです。この場合、「さっき食べたでしょう」と事実を伝えても、ご本人にはその記憶がないため、納得できずに「食べさせてもらえない」と不満や不安を募らせてしまいます。
過食への対応策と工夫
過食への対応は、ご本人の気持ちを否定せず、安心させてあげることが基本です。
食事の回数を分けて空腹感を紛らわす
一度の食事量を減らし、食事の回数を増やす(1日5〜6回など)ことで、空腹を感じる時間を短くする方法です。おにぎりやヨーグルトなどの間食を上手に取り入れましょう。1日の総摂取カロリーが増えすぎないよう、ケアマネジャーや管理栄養士に相談すると安心です。
手の届く場所にお菓子などを置かない
食べ物が目に入ると、食べたくなってしまうことがあります。パンやお菓子、果物など、すぐに食べられるものは、ご本人の目につかない戸棚や冷蔵庫にしまっておきましょう。
カレンダーに印をつけるなど食事の記録を見せる
食事をしたことを忘れて催促された場合、頭ごなしに否定するのではなく、客観的な事実を示して納得を促す方法があります。食事が終わったら空になった食器をすぐには下げず、少しの間テーブルに残しておくことで、ご本人が食べたことを認識しやすくなります。また、カレンダーやホワイトボードに「朝ごはん ◯」のように一緒に記録をつけたり、「〇時になったら美味しいおやつにしましょうね」と次の食事の見通しを伝えたりするのも安心につながります。それでも納得されない場合は、お茶などを少し提供して、気持ちを落ち着かせてあげるのも一つの手です。
【食事トラブル③】食べ物でないものを口にする(異食)
ティッシュペーパーや石鹸など、食べ物ではないものを口に入れてしまう「異食(いしょく)」。命に関わる危険もあるため、ご家族は一瞬も目が離せず、大きなストレスを感じます。
異食の原因と心理
食べ物かどうかの判断ができない
失認の症状が進行し、目の前にあるものが食べられるものかどうかを判断できなくなっている状態です。例えば、カラフルな消しゴムをお菓子と、白いティッシュペーパーをパンと見間違えてしまうなど、見た目や形で判断して口に入れてしまいます。
空腹感や口寂しさ
単純にお腹が空いていたり、口が寂しかったりして、手元にあるものを口に運んでしまうこともあります。また、不安やストレスを感じた時に、気を紛らわせるための行動として現れる場合もあります。
異食への対応策と工夫
異食は、窒息や中毒など命の危険に直結するため、まずは安全を確保する環境づくりが最優先です。
危険なものは手の届かない場所に保管する
ご本人の生活スペースに、口に入れると危険なものを置かないことが鉄則です。洗剤や化粧品、医薬品、たばこ、電池などは、必ず鍵のかかる引き出しや戸棚に保管しましょう。観葉植物も種類によっては有毒なものがあるため、手の届かない場所に移動させてください。ご本人の行動範囲を常に点検し、危険を未然に防ぐことが重要です。
おやつなどで空腹を満たしてあげる
空腹が原因と思われる場合は、食事の時間を待たずに、おやつや飲み物を提供しましょう。飴やガムなど、長時間口に含んでいられるものを与えることで、口寂しさが紛れることもあります。ただし、窒息の危険がないよう、見守りは必要です。
無理に取り上げず、好きな食べ物と交換する
すでに何かを口に入れてしまった場合、慌てて叱りつけたり、無理やり取り上げようとしたりするのは逆効果です。ご本人は、取られまいとして、慌てて飲み込んでしまう危険があります。「あら、そんなものより、ここに美味しいお饅頭がありますよ」と、ご本人の好きなお菓子などと交換を提案するのが有効です。
認知症の方への食事介助で大切なポイント
食事前の声かけとコミュニケーション
食事の前に、「もうすぐお昼ご飯ですよ。今日は〇〇さんの好きなサバの味噌煮です」などと声をかけ、食事への期待感や意識を高めてもらいましょう。献立を伝えることで、食べ物を認識する手助けにもなります。
本人のペースを尊重し、急かさない
介助する側の都合で、「早く食べさせてしまいたい」と焦るのは禁物です。急かすと、ご本人は食事が楽しめないばかりか、誤嚥(ごえん)のリスクも高まります。一口ずつ、しっかりと飲み込んだことを確認しながら、ご本人のペースに合わせて介助しましょう。
栄養管理と水分補給の重要性
食事を拒否したり、偏食があったりすると、低栄養や脱水が心配になります。特に高齢者は、喉の渇きを感じにくくなるため、意識的な水分補給が不可欠です。食事からだけでなく、おやつや食間に、お茶やゼリー飲料などを勧める習慣をつけましょう。
一人で抱え込まず専門家や介護サービスに相談する
食事の悩みは、ご家庭だけで解決するのが難しい問題です。ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すれば、訪問介護(ホームヘルプ)や通所介護(デイサービス)などのサービスを紹介してもらえます。一人で抱え込まず、専門家の力を借りましょう。
認知症の方の食事トラブルでお困りなら「笑がおで介護紹介センター」へ
「毎日の食事の準備や介助が、もう限界かもしれない」「栄養管理の行き届いた施設で安心して暮らしてほしい」そんな風にお考えなら、ぜひ私たち「笑がおで介護紹介センター」にご相談ください。
管理栄養士が在籍する老人ホームもご紹介
老人ホームなどの介護施設では、栄養バランスの取れた食事が提供されるだけでなく、一人ひとりの健康状態に合わせたきめ細やかなサポートが受けられます。施設によっては、管理栄養士が常駐し、専門的な視点から栄養管理を行っている場合もあります。
食事のサポート体制が整った施設探しをお手伝い
「笑がおで介護紹介センター」では、介護の専門知識が豊富な相談員が、皆様のお悩みやご希望を丁寧にお伺いします。関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山、滋賀、三重)の豊富な施設情報の中から、食事のサポート体制が充実した施設や、ソフト食・きざみ食といった個別対応が可能な施設など、ご本人様にぴったりの住まい探しを無料でお手伝いいたします。

このコラムの監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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