老人ホームを本人の同意なし・入居拒否をされた場合の対処法

ご両親に「老人ホームに入居してもらいたい」と伝えたとしても、拒否されることは少なくありません。
穏便に進めたい気持ちと、日に日に増していく危機感との間で、「説得を続けるべきか、それとも強行すべきか…」その究極の選択に、心が折れそうになっていませんか?
これは、親を想う多くのご家族が直面する、あまりにも重く、困難な問題です。
この記事では、介護施設紹介のプロフェッショナルとして、数多くのご家族とこの困難を乗り越えてきた私たちが、あなたの今の状況を解決するための具体的な道筋を、段階を追って示します。
この記事を読むことで
- 関係を壊さずに試せる、具体的な説得のステップ
- 同意なしでの入居を可能にする「法的手段」とその厳しい現実
- 【最重要】入居後のトラブルを防ぐ施設選びのポイント
を知ることができます。
この記事があなたの問題解決の糸口になれば幸いです。
老人ホームは本人の同意なしでも入れる?
老人ホームに入るのに本人の同意が得られなかった場合でも、施設によっては入居できることもあります。しかし基本的には、本人の同意のもとで入居するべきです。本人の同意なしでは入居できない老人ホームもあります。
本人の意思をないがしろにして老人ホームへの入居を決めると、家族間の関係が悪くなってしまうこともあるでしょう。本人の同意なしで入居できる老人ホームもありますが、やはり同意は得るべきです。
老人ホームの入居を拒否する理由
それではなぜ、ご本人は老人ホームへの入居を嫌がるのか、6つの理由について解説します。
理由1:自宅で介護を受けたいから
まずは「自宅で介護を受けたい」との思いがあることがあげられます。自宅で介護を受けたいと考えるのには、いくつかの理由があります。
たとえば住み慣れた自宅から離れたくない方もいますし、知らない人との共同生活が嫌だと感じる方もいます。また老人ホームは金銭的な負担が大きいからとの理由で、自宅にいたいと望む方もいるでしょう。
しかし介護が必要となる方のなかで、「自宅で介護を受けたい」と思っている方はかなりの割合にのぼります。
関連記事:在宅介護の大変さを軽減する4つの方法と施設入居のタイミング
理由2:家族に介護をしてほしいから
老人ホームのスタッフではなく、家族に介護をしてほしいからとの思いを抱いている方も少なくありません。介護は子どもの責任だと思っている方もいますし、老人ホームへの入居に対して「家族から捨てられた」と感じる方もいます。
つまりこれからも家族と一緒に暮らしていきたいから、老人ホームに入りたくないとの気持ちの表れです。
関連記事:親を老人ホームに入れるタイミングと嫌がる場合の対処法を丁寧に解説
理由3:住み慣れた家で暮らしたいから
自宅で介護を受けたい方が多いとお話しましたが、やはり自宅はいままでずっと暮らしてきた場所です。勝手もわかっていますし、リラックスできる場所に違いありません。
慣れない老人ホームに入って気を使いながら生活するよりも、リラックスできる自宅で介護を受けたいと思うのは当然のことです。そのため老人ホームではなく住み慣れた自宅にいたい、と思われる方が多く見られます。
理由4:施設によいイメージを抱いていないから
高齢の方のなかには「老人ホーム」自体に良いイメージを抱いていない方もいます。
たとえば虐待がある、食事がおいしくない、プライバシーがない、不自由である、などです。テレビのニュースでも、介護施設の虐待について報じられることがあります。実際にはほとんどないことですが、イメージが強く植え付けられているのかもしれません。
老人ホーム自体によいイメージがなければ、「行きたくない場所」と思われても仕方ないかもしれません。
理由5:「入居する必要がない」と考えているから
ご本人が「老人ホームに入居する必要がない」と考えていて、入居を拒否していることもあります。身体が元気で、身の回りのことを自分でできる方であれば、入居の必要はないと感じるかもしれません。
しかし場合によっては、認知症が進んでいることで、「自分は入居しなくても大丈夫」と思ってしまっていることもあります。認知症になると判断力が低くなります。ご家族にとっては入居したほうがよいと思えるケースでも、ご本人にとっては必要性が感じられないこともあるでしょう。
理由6:他人の世話になりたくないから
老人ホームへの入居を拒否する理由として、「他人の世話になりたくない」と考える方もいます。
プライドが高い方によく見られることです。 介護といえば入浴や排泄のお世話も含まれます。プライドが高い方であれば、ご自身の尊厳が失われるような気がするのかもしれません。
老人ホーム入居に対する同意が本人から取れない場合の対処法
老人ホームに入居せず自宅介護を続けるには限界があります。しかし本人の同意なしに老人ホームに入居させるのは避けたいものです。
そこで老人ホームへの入居に対して本人の同居が得られない場合、どのように対処するべきなのかご紹介します。
対処法1:本人に理解してもらえるように話し合う
本人からの同意が得られない場合、まずするべきことは本人との話し合いです。入居したくない理由を聞き出せれば、入居しても良いと思える条件の施設が見つかるかもしれません。
そして同時に、入居してほしいと考えている理由もしっかりと説明しましょう。お互いの考えをわかりあえれば、納得して老人ホームへの入居に同意してくれることもあります。
対処法2:愛情を伝える
老人ホームへの入居に同意してもらうには、家族が愛情を伝えることも大切となります。利用者の方にとっての老人ホームは、「家族に捨てられて行くところ」とのイメージがあるかもしれません。
しかし家族は「より良い生活をしてもらいたいから」と考えていることも。自宅で介護を受けるより、専門職員による行き届いたケアを受けたほうがよいと考えているのではないでしょうか。
思いを正直に伝えることにより、納得して老人ホームへと入居してもらえることも珍しくありません。
対処法3:本人の納得できる老人ホームを探す
本人の考えや希望を聞き出せたなら、本人の条件に当てはまる老人ホームを探すのも方法のひとつです。たとえば「食事がおいしくないから」との理由なら、食事のおいしさにこだわっている施設を探してください。プライベートがないのが嫌なのであれば、個室制の老人ホームであれば納得してもらえる可能性が高まります。
本人の納得できる老人ホームを探し出せれば、家族も本人も、円満な状態で施設の利用を始められます。
対処法4:老人ホームの生活に少しずつ慣れてもらう
いますぐに入居しなくてもよいなら、デイサービスやショートステイを利用して、少しずつ施設に慣れてもらうのもよいでしょう。
短期間・短時間のサービスを利用している間に、老人ホームがどのような場所なのかわかってきます。もし抵抗がなくなってきてから、本格的に入居するという段取りであれば、本人の同意なしに老人ホームを利用することにはならないはずです。
対処法5:専門家に相談して協力してもらう
家族だけでの説得が難しい場合、ケアマネジャーなどの専門家に相談して、協力を仰ぐ方法もあります。ケアマネジャーとは介護保険サービスの利用をサポートしてくれる、介護相談の専門職の方のことです。
専門家であれば老人ホームのメリットや特徴も、本人が納得できるよう丁寧に説明できます。また病院にかかっているなら、主治医に協力してもらうのも方法のひとつです。
専門家からの意見であれば、入居を拒否する本人も聞き入れてくれるかもしれません。
本人の同意が取れずに在宅介護を続けるデメリット
本人の同意なしに老人ホームに入居させるのはおすすめできません。しかし同意が得られず、在宅介護を続けることにはさまざまなデメリットがあります。
デメリット1:経済的に困る可能性が高まる
介護度が高くなると、仕事との両立が難しくなります。場合によっては、家族全員で介護をしても追いつかないとなることも。
そのため「介護離職」が起こることがあります。介護をするには仕事を辞めざるを得ないかもしれませんが、仕事をしなくても生活費や介護費は必要です。
このことから老人ホームに入居したときよりも、経済的に困ってしまうことが起こり得ます。
関連記事:老人ホームの入居にかかる費用は?相場と安く抑えるポイント
デメリット2:精神的に疲れる恐れがある
介護者が精神的に疲れてしまうこともデメリットのひとつです。介護は24時間ずっと続きます。朝から夜まで排泄や食事、移動のお世話をしなければなりません。深夜にトイレに起きるなら、一緒に起きてトイレへの付き添いが必要となることもあります。
毎日介護が続くと、介護者のほうが精神的にも身体的にも限界に達するかもしれません。「介護うつ」との言葉があるように、ストレスとの戦いになるでしょう。
デメリット3:虐待に発展するリスクを抱える
前項で解説したように介護者のストレスが限界を迎えた場合、虐待に発展してしまうことも考えられます。限界まで溜まったストレスを、つい要介護者にぶつけてしまうこともなきにしもあらず、です。
介護度が高くなっても自宅での介護を続けると、介護者・要介護者ともに追いつめられてしまうこともあります。
もし、このような状況に陥ってしまった場合は、自分・家族だけで抱えずに専門家や自治体などの相談窓口を頼るようにしましょう。
本人の同意なしで老人ホームの入居はなるべく避けて
大原則として、本人の同意なしに老人ホームへ入居させることはできません。
しかし、本人の判断能力が著しく低下し、生命や財産に危険が及んでいる場合、例外的に以下の法的手段が検討されます。ただし、それぞれに厳しい現実が伴います。
法的手段 | 目的 | 難易度 | 費用 (目安) |
期間 (目安) |
デメリット・注意点 |
---|---|---|---|---|---|
成年後見制度 | 財産管理と契約代行 | 高 | 申立:数万円 後見人報酬:月2~6万 |
半年~1年 | 時間がかかりすぎる。 財産が凍結され、専門職後見人の許可なしに引き出せなくなる。 |
医療保護入院 | 精神疾患の治療 | 中 | (医療保険適用) | 数週間~ | 精神保健指定医の診断が必須。 退院後の行き先は保証されず、家族が改めて探す必要がある。 |
措置入所 | 生命の保護 | - | (行政負担) | 緊急 | 家族の意思では動かせない。 虐待など、行政が「生命の危機あり」と判断した場合に限る。 |
これらの手段は、いずれも手続きが複雑で、時間も費用もかかります。
そして、家族が望む通りに進むとは限りません。「成年後見制度」は、最も現実的な手段に見えますが、緊急性には対応できず、一度始めると生涯続く重い制度であると理解しておきましょう。
入居後のトラブルを防ぐ施設選びのポイント
仮に、上記の手段を経て入居が実現したとしても、それがゴールではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。
同意なく入居されたご本人は、「騙された」「閉じ込められた」という怒りや混乱から、
- 強い帰宅願望や、施設からの脱走
- スタッフや他の入居者への暴言・暴力
- 食事や薬の服用を拒否する
といった行動(BPSD)が激しく現れることがあります。
この最も困難な状況を乗り越える鍵は、ただ一つ。
「こうした状況の入居者への対応に習熟した、専門性の高い施設を選ぶ」ことです。
一般的な施設では対応できず、すぐに退去を求められるケースも少なくありません。認知症ケア、特にBPSDへの対応力が高いか、精神科医療との連携体制が整っているかなど見極める必要があります。
状況に合わせた最善策を一緒に考えます
いかがでしたでしょうか?この記事を読んでいただくことで、本人の同意なしに老人ホームに入居できるのかがご理解いただけたと思います。
「穏便に説得したい」という愛情。「安全のためには、もう待てない」という責任。その間で揺れ動くご家族の葛藤は、決して間違っていません。
この重い決断だからこそ、ご家族だけで抱え込むべきではないのです。
笑がおで介護紹介センターでは、関西エリアでの老人ホーム・介護施設紹介を行っています。専門の相談員がいるため、施設の見学や本人への説得も可能です。希望される条件にあう施設をご提案できますので、関西での老人ホーム探しならまずは無料相談をご利用ください。
監修者
花尾 奏一(はなお そういち)
保有資格:介護支援専門員、社会福祉士、介護福祉士
有料老人ホームにて介護主任を10年
イキイキ介護スクールに異動し講師業を6年
介護福祉士実務者研修・介護職員初任者研修の講師
社内介護技術認定試験(ケアマイスター制度)の問題作成・試験官を実施
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