AIロボット時代の高齢者【介護のゴカイ 30】

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AIロボット時代の高齢者【介護のゴカイ 30】

大阪万博への失望:近未来の体現と高齢化社会の課題

いよいよ大阪万博が始まる。私は、これにはあまり期待していない。というのは、夢を見させてくれるような近未来をそこで体現できるという気がしないからだ。

過去の万博が描いた未来

私が子供の頃に熱狂して6回も行った1970年の大阪万博では、小型コンピュータが当たり前に使えるようになってからの生活を体験させてくれた。愛・地球博と呼ばれた2005年の愛知万博では、二本足で踊るロボットや受付業務をできるロボットなどを見させてくれた。それから20年も経つのに、たとえばロボットがどこまで進歩して、これからどんな風になっていくのかを見させてくれるという話になっていない。

期待されるロボット技術の進歩と高齢化社会への貢献

自動運転と宅配ロボット

たとえば、自動運転の車に宅配ロボットが乗り、宅配の無人化の絵を見せてくれるなら、あと5~10年で人手不足が解消するのだとわかる。

家事・介護ロボットの可能性

それ以上に期待したいのが、家事ロボット、介護ロボットである。掃除や洗濯、調理、その材料の買い物までロボットがやってくれ、さらに入浴介助などもロボットがやってくれるなら、死ぬまで住み慣れた家で暮らすことができる。

もちろん、現在の高齢者施設のレベルは高くなってきているし、そこにもこの手のロボットが入れば、さらにサービスの向上は望めるだろう。それでも、住み慣れた家のほうがいいとか、一人のほうが気楽という人は現実にいる。

ただ、身体や脳の問題で、施設介護がやむない人はかなりの数でいる。現在要介護5の人体を受けている人は60万人以上いる。家族が同居していなければ生きていけないのだから、施設介護が必須の人がそれだけ多いということだ。

在宅介護の現実と課題

施設介護がいやだから、家族に頼ることになるのだが、その弊害は意外に大きい。介護疲れや介護の精神的負担のために、介護うつになったり、共倒れといわれる状況になることは珍しくない。在宅介護を理想化するがゆえに様々な悲劇が起きている。今でも年に50件くらいの介護がらみの殺人事件(一般的には介護を受けている人が殺されるもしくは介護する人と受ける人が心中する)が起きているし、また、介護うつから自殺する人は年間数百人から数千人とされる。介護ロボットが実用化すれば、そういう悲劇がなくなるはずだ。

人間関係のストレスからの解放

もう一つは不快な人間関係から解放されるということがある。定年後、子供も離れ、夫婦で顔をつきあわせる時間が長くなると、相性の悪さが表面化することは珍しくない。これまではどちらかあるいは両方が会社に行っていたので、夫婦で一緒にいる時間がそう長くなかったのが定年で、それが長くなると、相性がよくないとだんだん気が重くなってくる。そのせいでいろいろな自律神経症状などが出て、身体の不調があちこち感じられることもある。夫がいるだけで調子が悪いというのは、夫源病と呼ばれ、タレントの上沼恵美子さんがその状態だったことを告白して話題になった。別居で改善したそうだし、最近は、これが原因での熟年離婚も増えているが、そうはいかないことも珍しくない。年金の分割制度などで、とくに女性は離婚しても生活はしやすくなっているのだが、やはり将来の介護などを考えて、同居というパターンはよく聞く話だ。

家族関係における介護と財産の問題

あるいは、子供に頼るということもある。たとえば、夫婦が離婚したり、死別したりして、独身になった高齢者が、運良く、新しいパートナーを見つけて結婚したいという話になったとしよう。そういう場合に、その人に財産があると、子供たちが反対する話もよく聞いている。「財産目当てなのだから、結婚を考えるなどとち狂っている」というわけだ。本当は、子供の方が財産目当てで親の幸せの邪魔をしているように感じられるが、それで結婚を断念する人は少なくない。その大きな原因は、将来、自分が介護が必要になった際に、子供をあてにするということだろう。子供への必要以上の遠慮も、この介護ロボットが解決してくれる。逆に、子供の側も、親に頼られているという義務感がだんだん重くなっている人は少なくない。これも介護ロボットが解決してくれる。ということで人間並みに働いてくれる介護ロボットが実用化すれば、超高齢社会の将来は間違えなく、今より明るいものになる。介護負担が一気に楽になるし、いやな人間関係を続ける必要もなくなるし、義務感からも解放されるからだ。それを今回の大阪万博で見せてもらえなかったから、がっかりしているのだ。

AIとロボットの未来:癒やしと自立支援

おそらく技術的には可能なのだろうが、そういうものを作りたいという経営者がいないという大きな問題がある。ただ、いっぽうでロボットなどに介護されたくないと考える人も少なくないだろう。AIやその他の技術は、ロボットの概念を大幅に変えてくれるはずだ。3Dプリンターは、三次元の物体をそのまま三次元でコピーできる。自分のお気に入りのタレントとそっくりのロボットを作ることができるのだ(もちろん本人の許可と協力がいるだろうが)。AIの技術で、声もお気に入りのタレントのものにできる(許可は同様だが)。

AIによる心のケア

それ以上に大きいのは、AIの技術で話し相手になってくれることだ。今でも生成AIで、質問に関してかなり的確に答えてくれるし、文章を作ってくれたりもする。実は、悩みを相談すると、かなりよくできた回答をしてくれる。そして、人間と違って人を傷つけるような答えをしたりはしない。こちらが自分の声で相談すると、相手もお気に入りの声で答えてくれる。だから、AIというのは、重要な癒やしのツールとなり得るのだ。

AI学者の落合陽一さんによると、AIの国語力が人間に追いつくのは2026年のはずだったが、2023年に追いついてしまった。これからはAIのほうが人間より読解力や文章作成力が優れてしまうということだ。そういう意味で人の会話から気持ちもわかってくれるし(これが心情読解の基本だ)、適切な言葉を選んで、答えてくれる。AIは人工知能なので学習能力もあるので、何回も問いかけるたびに答えの内容が、自分に合ったものになってくるはずだ。好きな人の容姿で、好きな人の声で、自分に合った答えをしてくれるのだから、つまらない身内や恋人より心地いいということもあり得るだろう。

そういう意味では、新しいタイプの介護ロボットは自分に逆らわないパートナーのようなものだし、悪い言い方をすれば、お金も取らずに(電気代くらいしかかからないだろう)24時間働いてくれる自分のための奴隷とも言える。この条件を満たせば、老人ホームに入らないで済むことやランニングコストの安さから、2000万円くらいでも売れる気がする。それを作ろうとする人や会社がないことが不思議なのだが、日本人、あるいは世界の人の頭が、それだけ高齢者、とくに独居高齢者に向いていないということなのだろう。

AIというととっつきにくいものと考える人、とくに高齢者が多いが、原則的に(あるいは将来は)、自分で考えてくれるので、こちらのほうで使い方を覚える必要はない。AI搭載のロボットであれ、自動車であれ、あるいはAIと話しかけることであれ、こちらは喋りかけるだけでいいのだ。そんな話は夢物語でなく、10年先くらいの話なのだ。そんなことさえ見せられない大阪万博に私は失望している。

AIロボットがもたらす豊かな生活

ついでにいうと、AIロボットというのは、会話だけでなく、ほかの幸せな生活ももたらせてくれる。グルメな人にとっては、自分でレシピを考えて(というか、サイバー空間から検索して)、その食材を買ってきて、とてもおいしい料理を作ってくれることも可能だろう。文句を言えば味も変えてくれる。多少足が不自由になっても旅行に連れて行ってくれるということも可能だろうし、現地の名所も調べてくれて、連れて行ってくれる。本格的に寝たきりになれば、ゴーグルのようなものを目につけるだけで、いろいろな世界を体験させてくれる。そういうことが味気ないと思う人もいるだろうが、歳をとっても、身体が弱ってきても、幸せをなるべく提供しようとしてくれることは確かだ。ついでにいうと、体調が悪いときに、症状をいうと、どんな対応が必要かも答えてくれるはずだ。医者に行く必要も大幅に減るかも知れない。これまではIT技術の進歩は主に若者が楽しむものだったが、AIという自分で調べ、考えてくれるツールは、むしろ衰えた高齢者の衰えを補ってくれるものだ。大阪万博も含め、そういうイメージが伝わらない、広まらないのは残念で仕方がない。

著者

和田 秀樹(わだ ひでき)

国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科医師を歴任。

著書に「80歳の壁(幻冬舎新書)」、「70歳が老化の分かれ道(詩想社新書)」、「うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ(講談社+α新書)(樋口恵子共著)」、「65歳からおとずれる 老人性うつの壁(毎日が発見)」など多数。

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