【和田秀樹コラム】男性ホルモンの低下を防ぐ|「80歳の壁」著者が語る「介護の誤解」vol.6

ホルモン分泌の影響
前回、加齢とともにセロトニンの分泌が減ることで、意欲が衰え、うつ病になりやすくなることと、その対策についてお話をした。 そのほかの意欲の大敵と言えるのが、とくに男性にとっては男性ホルモンの分泌低下だ。 男性ホルモンというと性欲のホルモンのように思われがちだが、男性が若々しく、かつ男性らしくいるためにはなくてはならないホルモンだ。 実は、思春期の頃までは、男女とも確かに性器の形などで、性差は認められるが、身体や脳では大きな差がないどころか、女性のほうが身体も大きく、勉強ができることが多い。 ところが、思春期の頃に男性が女性に体格で抜かすし、勉強なども男性が優位になっていくことが多い。 これは、男性が女性を食べさせていかないといけないという性的役割や周囲の期待の差だと思われてきた。実際、社会が変わって、女性は昔よりは、進学成績が明らかに上がっている。医学部などでは4割くらいが女子の合格性だし、私が受験したころは1割もいなかった東大の女子合格者も2割くらいになっている。 しかしながら、まだまだ男性優位なのは事実だ。 批判を覚悟でいうと、やはりこれは男性ホルモンが思春期に急に分泌される影響だと考えている。
男性ホルモンと意欲
たとえば、男性ホルモンが多い人ほど筋肉がつきやすく、脂肪がつきにくくなる。同じだけ肉を食べても、歳をとると筋肉が減り、脂肪が増えるのは男性ホルモンの分泌低下のためだ。 実は、男性ホルモンは知的機能にも影響する。 脳内のアセチルコリンという記憶をよくする神経伝達物質の分泌を促すからだと考えられている。 実際、男性更年期障害(今はLOH症候群=加齢性腺機能低下症)と呼ばれているの患者さんでは、物忘れがひどいと訴える人が多い。 歳をとって記憶力や判断力が衰えるのは、歳をとるほど男性ホルモンが減るからという説も有力なのだ。 あと、歳をとると、若いころ(中高年のころ)と比べて、女性に興味関心をもつことも減ってくる。かつては、女性の新入社員が入ると気になって仕方がなかったのが、歳をとるにつれ、あまり関心がなくなる人は少なくないだろう。 ただ、問題なのは、男性ホルモンが減ると、女性に関心がなくなるだけでなく、人間全体に関心がなくなる。男性の場合、歳をとるほど、人づきあいがおっくうになるのは、男性ホルモン低下のためだと考えられている。 そして、我々、老年医療を行う者にとって決定的に困るのは、男性ホルモンが減ると意欲が低下することだ。これまで散々論じてきたように、歳をとってからは、意欲が低下して、頭を使うことや身体を使うことがおっくうになると、認知機能や身体機能がどんどん低下してしまう。
老化予防と男性ホルモン
実は、東日本大震災の後の、住民調査によって、女性は閉経後、男性ホルモンが増えることがわかっている。これまでは女性ホルモンが減るから相対的に男性ホルモンが増えると思われていたのだが、そうではなく、男性ホルモンの絶対量が増えることがわかったのだ。 実際、女性の場合、閉経後、アクティブになる人が多い。また人付き合いが盛んになる人も多い。 私のみるところ、高齢者の団体旅行というと、まず女性のグループである。 ということで、男性も女性に負けないように、若さと意欲を保つには、男性ホルモンを減らさない、逆に増やしていくくらいの生活が必要だ。 男性ホルモンを維持したり、増やすことができれば、意欲が保たれるので、身体を動かしたり、頭を使い続けることにつながるので、老化を予防できる。それ以上に、筋肉がつきやすくなるという効果のおかげでフレイル(虚弱状態=正常と要介護の間くらいの状態)の予防にもなる。実際、三浦雄一郎さんが80を超えてエベレスト登頂に成功したのも男性ホルモン治療の影響も大きいとされている。
男性ホルモンと食生活
そのための対策をここで提案したい。 一つは食生活である。 前回、セロトニンを増やすためにたんぱく質摂取の大切さを訴えたが、これについては大豆でも魚のたんぱく質でもいい。しかし、男性ホルモンを増やすためには肉食のほうがいい。 コレステロールの含有量がずっと多いからだ。 コレステロールというと健康の敵と思っている人が多い。 確かに心疾患が死因のトップであるアメリカを初めとする欧米諸国では、コレステロールは動脈硬化の原因(最近は、これに否定的な説もある)なので、コレステロールは死につながる物質といえる。実際、ハワイの住民調査ではコレステロール値が高い人ほど心筋梗塞による死亡が多いとされている。 しかし、がんで死ぬ人が心筋梗塞で死ぬ人の12倍もいる日本では事情が違ってくる。 同じハワイの住民調査では、コレステロール値が低い人ほどがんによる死亡率が高くなってしまう。おそらくは免疫細胞の材料がコレステロールだからだろう。 それと同じように、コレステロールは男性ホルモンの材料でもある。 だから、コレステロール値が高い人ほど若々しいし、エネルギッシュだし、そして日本では死亡率が低い。 ということで単純に男性ホルモンを増やすために大豆や魚より肉食を勧めたいのだ。ただし、魚の脂は心筋梗塞の予防効果もあり、身体の酸化を予防するのでこれもとっておきたい。 私は半々くらいでちょうどいいと思っている。
老化予防・要介護予防
次に、適度な運動だ。 男性ホルモン値が高いと運動の意欲が高まるが、運動すると男性ホルモンの分泌が増える。この好循環が老化予防、要介護予防に大切なのだ。 もう一つは、やはり異性とかかわりをもつことだ。 恋愛は、男性には男性ホルモンを増やし、女性は男性ホルモンも女性ホルモンも増やす。女性は元気になる上に、肌つやもよくなるし、骨粗しょう症の予防にもなる。 恋をすると男女とも若返るのは、ホルモン医学の立場からみると本当だとしかいいようがない。 ただ、さすがに配偶者がいる人はそうはいかないだろう。 だから相手が許す範囲で、心が沸き立つ異性とのかかわりをもつといい。 たとえば男性なら女性が接客してくれる店で楽しむ。 女性ならスポーツクラブのコーチに憧れ感情をもったり、あるいはアイドルや韓流スターのおっかけもいいだろう。 実は、いちばん男性ホルモンを増やしてくれるのは、実際にエロティックな小説や映画、動画や画像を楽しむことだ。 年甲斐もなくと思われがちだが、若返りのための薬と思ってポルノグラフィを見るのは、男女とも若返るための大事な手段なのだ。
日本の文化と高齢者
日本の政治家というのは、この国が高齢者が多い国という意識がまるでない。 高齢者が多いというと年金財政や福祉ばかりを気にするが、要介護やフレイルを減らし元気な高齢者を増やすのが重要な課題だ。 実際、高齢者の多い北欧諸国では、コロナ対策として、自粛期間をなるべく短くした。自粛が長く続くと、要介護高齢者が増えるからだ。 ところが、日本は高齢者が世界一多いのに、世界一自粛期間が長い。 同様に世界で一番高齢化率が高いのに、先進国で唯一、ポルノが解禁されていない。 政府の施策だけでなく、文化のほうも、高齢者が性的なことに関心を示したり、恋愛を求めたりしたりすると、年甲斐もなくと言われがちだ。 この文化にしても、江戸時代は、世界的に見ても性的に寛容な国と知られていたし、渋沢栄一をはじめとして歳をとって愛人をもったり、子供ができることが世界でも多い国だった。ある時代から世界でも最も性的なことに不寛容な国になり、超高齢社会だというのに、それが是正されないのは残念なことだ。 こういう国にいる以上、よほど家族や配偶者の理解を得ない限り、とくに高齢になってから男性ホルモンの分泌を増やすことが難しいのは事実だろう。 ただ、あきらめることはない。 医療が助けてくれるのだ。
男性ホルモンの補充治療
三浦雄一郎さんが男性ホルモンの補充治療を受けて、エベレスト登頂に成功したように、一般の人も男性ホルモンの補充は可能だ。 検査をしてLOH症候群の診断を受けると、保険治療で数千円で男性ホルモンの補充治療を受けることができる。 男性ホルモンが低くなくても、若いころのレベルに戻すと若返ることができる。その場合は、保険はきかないが、月に3万円程度なので、効果の確実さを考えると健康食品にそのくらいのお金をかけるよりよほど若返りが期待できる。私のクリニックでも最もリピーターの多い治療である。 三浦雄一郎さんの主治医で92歳まで現役の医師を続け、ピンピンコロリで亡くなった熊本悦明医師は、生前、男性ホルモンを「元気ホルモン」と呼び変えるべきだと提言していた。 要介護状態を避けるための男性ホルモンの役割を馬鹿にしてはいけない。
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