介護保険を受けよう【カイゴのゴカイ 15】

 

介護のゴカイ

介護保険を受けよう【カイゴのゴカイ 15】

多くの人が要介護状態への備えをしていない

これまで、いろいろな形で要介護状態になることの予防法を論じてきた。
ただ、人間というのは老いには勝てないもので、歳を取れば取るほど要介護状態に陥る可能性は高くなる。
85を超えると5割の人が要介護認定を受けるし、4割の人がテスト上は認知症の診断を受ける。
これまで論じてきたように身体を動かし、頭を使うことで、要介護や認知症になることを遅らせることはできるが、残念ながら限界もある。
実際、私がかつて勤務していた高齢者専門の総合病院では年間100例ほどの高齢者の解剖を行っていたが、85歳を過ぎてアルツハイマー型の変性が脳に起こっていない人は一人もいなかった。
頭を使うことで発症は遅れるが、残念ながらみんなアルツハイマーだということだ。
また、突然、脳梗塞が起こったり、転倒骨折したりして、それまで元気だった人が一夜にして要介護状態に陥ってしまうのも高齢者の怖いところだ。
縁起でもないことを書き連ねてしまったが、私が言いたいのは、多くの人がその備えをしていないということだ。

介護保険料と介護保険被保険者証とは

要介護状態になれば介護保険を受けられるのに、多くの人は、そういう事態に直面するまで、その使い方をほとんど知らない。
実は、介護保険というのは、40歳以上になると原則的に保険料を払わないといけないものだし、非正規雇用も含めて、雇われている人は、給料から天引きされるものだ。そして歳をとると年金から天引きされる。
このお金を払っている証拠のような形で65歳になると介護保険被保険者証というのが自治体から交付される。
仕組みとしては、健康保険料を払っていると健康保険被保険者証(これが通常健康保険証と言われるものだ。ただ、正式名称は健康保険被保険者証で、保険証と言われるもののの前面にはそう明示してある)がもらえるのと同様だ。

介護保険を使うためには介護保険担当窓口に申請が必要

ただ、いわゆる保険証は、自分が医療機関を受診する際に、それを提示するとなんの事前の手続きがなくても、自動的に保険が適応されるのだが、介護保険の場合は、被保険者証があっても自動的には使えない。
まず自治体の介護保険担当窓口に申請すると、申請書に記載された医師の意見書と自治体の認定調査員が自宅を訪問して認定調査をした結果をもとに、介護認定審査会が審査と判定を行って、それによって自治体が認定して、サービスが利用できるようになる。

介護保険の申請には医師の意見書が必要

この場合、申請書に記載された医師というのは、いわゆるかかりつけ医と言われる普段診てもらっている医師なのだが、認知症で医者にかかりたがらない場合などは、申請書で主治医名を空欄にしておくと、自治体が指定する医師が診察して、意見書を書いてくれることになる。
それでも、その医師のところに行くのを嫌がる場合、地域包括支援センターというところに相談に行くという手がある。
ここは介護認定を受けていなくても、65歳以上の高齢者なら誰でも利用できることになっている。
ここは要介護状態にならないための介護予防や親や配偶者が認知症になってしまった場合の財産管理のサポートなど、いろいろなことに相談に乗ってくれるのだが、私が聞く限り、地元で面倒見のいい医者の情報をかなり持っていることが多いようだ。
往診して意見書を書いてくれる医者とか、かなり気軽に意見書を書いてくれる医者とか、そういう情報も持っているようで、なんとか申請できるようにしてくれるという話だ。
人口2~3万人の日常生活圏域(一般的に中学校区域)を1つの地域包括支援センターが担当することになっているので、そんなに難しくなく探せるはずなので、うまく利用するといい。
私も面倒見のいい医者と思われているらしく、そういうところに話を聞いてきたという患者さんがときどきいらっしゃる。

要介護認定に応じて受けられる介護サービスの金額が異なる

さて、自治体に申請し、医者に意見書を書いてもらって、審査と判定の結果が出ると、要支援1、2、要介護1~5の7段階の判定を受ける。
これによって、受けられるサービスの金額や種類が決まるわけだが、たとえば要支援1と判定されれば、月に約5万円分の介護が受けられる。いちばん重い要介護5と判定されると月に約36万円の介護が受けられるということになる。実は、地域による人件費の差が考慮されるので、高いところと安いところがあるのだが、このあたりの金額が目安になる。
そう言われても、この金額でどんなサービスがどれだけ受けられるかは一般の人にはほとんどわからないだろう。

要介護認定に応じた介護サービスとケアマネージャーの役割

そこで役立つのはケアマネジャーと呼ばれる人だ。
これも介護認定を受けると自動的に紹介されるわけではないが、前述の地域包括支援センターというところにいくと、居宅介護支援事業所のリストがもらえる。家に近いからとか、面倒見がいいからと地域包括支援センターが、評判のいい居宅介護支援事業所やケアマネジャーを紹介してくれることもあるようだ。

良い介護サービスを受けるにはケアマネージャーの存在が重要

残念ながら、ケアマネジャーに当たりはずれがあるのは事実だ。
よいケアマネージャーにあたると、利用者(つまり要介護状態になった本人)の性格や、たとえば認知症の程度に合わせたデイサービスなどを紹介してくれるし、地域の事情にも明るい。介護保険が始まって20年以上経つので、よいデイサービスセンターのスタッフはお年寄りの扱いがうまい人も増えてきて、最初は嫌がっていても、利用者も、喜んで行くようになることは珍しくない。どこのスタッフが愛想がいいとか、高齢者への対応がうまいとかいう情報をよいケアマネジャーは、ほかの利用者などからあれこれと聞いているせいか、見事にもっているものだ。
残念ながら、私のような医者には、地元のその手の事情がほとんど入ってこないので、ケアマネジャーのほうがよほどあてになる。
はずれの人にあたると、本人の性格などをあまり考慮してくれないし、大した情報ももっていない。また場合によっては、居宅介護支援事業所の系列の会社のヘルパーさんや、デイサービスセンター、ショートステイなどしか紹介してくれない人もいる。
それ以上に、よいケアマネジャーに当たると、あれこれと困ったことが生じた際に相談に乗ってくれるし、心理的なサポートになる
こういう人と知り合えることが介護保険利用の最大のメリットとさえ私は考えている。
実際は、ケアマネジャーは担当する利用者や家族に月に一回訪問して面接しなければいけないのだが、どれだけ長い時間話を聞いても、入ってくるお金は変わらないし、何回も訪問しても報酬は変わらない。
だから面倒見のいい人とそうでない人の差がついてしまうのだが、私の知る限り、やはり利用者の喜ぶ顔をみたり、感謝されることが生きがいになる人も少なくないようで、頭が下がるくらい面倒見のいいケアマネジャーは確かにいる。

ケアマネージャーや居宅介護支援事業所は変えてもらうことができる

もう一つ知っておいてほしいのは、はずれのケアマネジャーに当たった際は、変えてもらうことができることだ。居宅介護支援事業所で別の人を紹介してもらってもいいし、居宅介護支援事業所を別のところに変えることもできる。
とにかく、当たりのケアマネジャーと出会えるかどうかが、これからの長丁場の介護のカギを握ると言っていい。
私は長年の高齢者医療で、とくに認知症の患者さんを診ることが多かったこともあって、家族と患者さんの共倒れとか、以前にも問題にした家族の方の介護うつもかなり診てきたので、介護に疲れを感じたり、家族の方が仕事との両立が難しい場合は、施設介護を勧めることが多いし、それに罪悪感を覚える必要はないと考えているが、ケアマネジャーは、有料であれ、公的なものであれ、どこの施設がいいかの情報も意外にもっている。迷ったときは意見を聞くのもよい。

デイサービスは在宅介護や介護予防はもちろん家族にとっても重要

いずれにせよ、在宅介護の期間中はケアマネジャーに頼りながら、本人に合ったデイサービスを利用するのは重要なことだ。
デイサービスのアクティビティがよく、またスタッフの対応がよければ、利用者がみるみる元気になることも珍しくない。認知症の患者さんは家にいると何もしないことが多いので、よい刺激になるのだ。最近は介護予防と言って、認知症などが悪くならないためのデイサービス利用も盛んに行われている。麻雀をやったり、カラオケをやったり、普通の老人クラブのような雰囲気のところも少なくない。
デイサービスのいいところは、1日預かってくれるので、その間に家族がやりたいことができることもある。さらにお風呂に入れてくれるところも多いので、入浴で苦労されている家族にはかなりありがたいようだ。
これにショートステイという泊りの利用も組み合わせると、たとえば家族が、介護のリフレッシュのために旅行に行くこともできる。あるいは、家で介護がない分、ゆっくりと眠ることもできるだろう。

介護保険は保険料を払っている以上当然の権利

さらにいうと、自宅の改造やオムツの購入なども介護保険から補助金が出る。 この手のことを意外に知らない人が多いのが私の実感だ。 実は、介護保険というのは「措置から権利に」ということでスタートしたものだ。これが始まる前は、たとえばショートステイは、自治体が必要と認めた例えば家族が入院するときとか、葬儀があるときしか使えなかった。ところが介護保険が始まってからは、お金を払っている以上、当然の権利なので、どんな理由でもショートステイは利用できる。
介護保険料を毎月取られているのだから、軽いうちでも介護が始まったら使わないと損だ。そしていろいろなサービスも、ケアマネジャーに相談に乗ってもらうことも介護保険を申請しないと始まらないのだ。

著者

和田 秀樹(わだ ひでき)

国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科医師を歴任。

著書に「70歳が老化の分かれ道」(詩想社新書)、「80歳の壁」(幻冬舎新書)など多数。

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