高齢者の精神科医の選び方【カイゴのゴカイ 19】

 

介護のゴカイ

高齢者の精神科医の選び方【カイゴのゴカイ 19】

高齢者のうつ病や介護うつと精神科医の選び方とは

高齢者のうつ病や介護うつには早期発見・早期治療が大切

以前、高齢者のうつ病の怖さや介護うつの本当の怖さなどの話をさせていただいた。
うつ病というのは、最悪、自殺という形で死を招く病気である上に、最近の精神神経免疫学の考え方ではうつ病が免疫力を落とすために、インフルエンザやコロナなどの感染症を重症化させるし、また身体でできた出来損ないの細胞を殺してくれる免疫細胞の活性を落とすので、がんになりやすくなる原因にもなると考えられている。
前にも話したが、この病気は早期発見、早期治療が大切だ。
長い間、この病気を放っておくと、神経細胞が障害され、認知症の原因にもなるし、うつ病になると悲観的になり、よけいうつ病が悪くなる悪循環を起こしやすいからだ。

高齢者のうつ病の治療には精神科医の選び方が大切

ただ、早期発見、早期治療という場合に、やはり大切になってくるのが医者の選び方だ。
私自身、高齢者専門の精神科医という仕事に30年以上も従事しているが、高齢者に若い人や中高年の人と同じような薬の使い方をする精神科医は少なくないし、あまり話を聞いてくれないという苦情もよく聞く話だ。
あと、精神科医でもうつ病を認知症と誤診することもときどきある。高齢者の場合、うつ病でも認知症でも記憶障害が起こるし、うつ病でも認知症でも(というかすべての高齢者が)脳が委縮するので、慣れていない医者にはそういうことが珍しくないのだ。
うつ病というのは治るまでは、来る日も来る日もつらい、だるい日が続く病気だ。
残りの人生が、辛く苦しい(しかも、それがずっと続く)ものにならず、意欲的で元気でいられるためには、少しでも早く治り、少なくとも軽くなることが大切だ。
だから、はずれの医者に当たったなら、次の医者を探すくらいのつもりで、患者さんに合ったいい医者を探すことは大切だ。

高齢者の精神科医選びの初診時のチェックポイント

待合室の患者さんが比較的明るければ治療の期待が高い

まず初診時のポイントは、待合室から始まる。
2つのチェックポイントは、そこに来ている患者さんがどんな状態かということと、高齢者の患者さんがどのくらいいるかだ。
患者さんが多い病院は流行っているのだろうと思われがちだが、意外にあてにならない。
つい最近、精神医療の改善運動をしていて、悪徳精神科医の告発を続けているジャーナリストの人と対談したのだが、彼の話では、患者さんをちゃんと治さない医者は、患者さんが溜まってくるので、長年続けていると患者さんがどんどん多くなってしまうそうだ。昔からやっている精神科のクリニックの場合、 ヤブ医者のほうが流行ってしまうというパラドックスがあるのだ。
ということで、待合室の患者さんがみんな元気がないとか、暗い顔をしているという場合、あまりちゃんと治していない可能性がある。逆に待合室の患者さんが、精神科なのに比較的明るく、おしゃべりなどをしているクリニックなら、治療の期待が高い。
あと、高齢者の患者さんがあまりいないクリニックでは、経験不足のため、高齢者の治療には適していない危険性がある。私の経験では、若い人に出す薬の量と、高齢者に出す量は10倍くらい違うことはざらだ。
また、高齢者をあまり診ていない医者だと脳が縮んでいるだけで認知症と決めつけられたりするのも要注意だ。
もちろん、ふだん若い人や中高年の患者さんを診ている先生でも、高齢者には慎重に治療を行う人もいるから、最初に薬を出されるまで決めつけてはいけないが、一応、大切なチェックポイントと思ってほしい。

きちんと病歴を聞いてくれる先生なら信用できる

初診を受けるときの大切なポイントは、どのくらい病歴を聞いてくれるかだと私は考えている。
同じように物忘れがあり、着替えもあまりしなくなったという場合、認知症の場合、物忘れが始まってから着替えをしなくなるまで3~5年のタイムラグがある。ところが、うつ病の場合は、そのタイムラグがあまりない。
どういう症状がどういう順で出てきたかなどをきちんと聞いてくれる先生ならまず信用できる。
実は、そういうことも含めて、初診に十分な時間をとってくれる先生はよい医師である可能性が高いのだが、それでも収入が減ってしまうし、多くの患者さんを待たせてしまうことになるので、そうはいかないことも多い。
私の場合は、初診の前に、臨床心理士やケースワーカーにインテーク面接というのをやってもらって十分に情報を得てから、初診に入ることにしている。
医者がゆっくり話を聞かなくても、そういうシステムになっているところも安心と言える。
医者のパーソナリティともいえるが、やはり患者さんに安心感を与えるのも大事な仕事だ。電子カルテだけを見ているのでなく、直接に向き合ってくれることがその近道と言える。
その際に邪魔になるのがマスクだ。コロナ禍になって以来、マスクのために患者さんの表情が見られないと、患者さんの具合がよくわからないことは往々にして体験する。患者さんにしても、医者が柔和な表情をしているのが、マスクのせいで見えないと患者さんに安心感を与えるのが難しくなっている。
いずれにせよ、当の患者さんが、あの先生に診てもらえるとほっとするというのであれば、その人にとっていい医者である可能性が高い。

治療方針の説得力と高齢者であることを配慮した薬の出し方

初診が終われば、家族に診たてを話してくれるとか治療方針を話してくれたりすることになるが、それが説得力があるかどうかも大事なポイントだ。ただし、一回目ではまだわからないので、薬の反応をみて診断させてくださいというような医者も誠実ないい医者だと思う。
その後、処方箋が出されるが、薬の説明をしっかりしてくれる医者も安心できるだろう。
この際に、初診時から3種類以上の薬を出す医者は要注意といえる。
一つずつ試してみて、ダメなら変えるというのが、少なくともアメリカでは精神科医のトレンドだ。
あとは、薬の量だ。
昔と違って、今は出された薬の内容だけでなく、通常の量がインターネットなどで検索できる。通常は、若い患者さんの常用量が表示されるので、高齢であることを考慮していない薬の出し方をされているようなら危険な医者の可能性が高い。

2回目以降の診察でいい精神科医と言えるポイント

いい医者は合う薬と出会うまでフレキシブルに対応してくれる

さて、その後、医者が出した薬を飲むことになるのだが、運がよければ、2週間くらいでかなり改善する。もちろん、それなりの経験を積んだ医者でも(私も経験だけは自信がある)一回目から当たりの薬が出せないときのほうが多い。1回目の薬が合わなかったからといって、ヤブ医者と決めるのは早い。
ただ、2回目以降の診察で、薬が合わないと訴えても変えてくれない医者は原則的にはお勧めできない。フレキシブルに薬を変えてもらううちに合う薬と出会うというのが通常のパターンだからだ。
あと、効き目が十分でないときに、あれこれと薬を足していくというのは、日本では当たり前に行われることだが、これでは副作用のリスクが増すし、どの薬が効いているのかよくわからなくなる。
まずは元の薬の量を増やし、それでもあまり効き目が変わらないなら、その薬をやめて別の薬を試してくれるというのが王道だ。
いずれにせよ、2回目以降の診察では、患者の状態に合わせてフレキシブルに対応してくれる医者がいい医者だと私は考えている。

カウンセリング治療は患者さん本人がどのくらい満足しているがポイント

薬以外のカウンセリング治療だが、日本の場合、それを学べる場が少ないのと、時間が十分取れないこともあって、大きな期待はできない。多くの医者が自己流の治療をやっているようだが、それが患者さんに合っていて、先生と話をしていると元気になれるとか、気分が楽になるというのなら、十分有効だと考えていい。欧米の精神科治療のように一回当たりの時間を十分に取れるわけではないが、5分の診察でもずっと続けられるのが日本の治療のよさだ。長く通ううちに人間関係のようなものができてきて回復することは珍しくない。
最終的には、医者との相性というものもある。不愛想な医者でもなぜか患者が安心感を得ることもあるし、いい医者という評判の医者でも、患者さんは行きたくないということもある。
患者さん本人がどのくらい満足しているかは医者選びの大切なポイントだ。
昔と比べれば、精神科のクリニックはずっと増えたし、私の印象だが、介護保険が導入された2000年ごろから、高齢者の治療に慣れた医者も増えてきた印象だ。
上手な医者選びで、高齢者本人や高齢になった親が少しでも心の健康を保ったまま余生を過ごせることを心から願っている。
実は、最近(3月27日発売予定)、『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)という本を出した。
『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)
かなり実用的で、わかりやすく高齢者のうつ病の予防や対策を書いたつもりなので、興味のある方はぜひ手にとって、自分や親の心の健康のために役立ててほしい。

著者

和田 秀樹(わだ ひでき)

国際医療福祉大学特任教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科医師を歴任。

著書に「80歳の壁(幻冬舎新書)」、「70歳が老化の分かれ道(詩想社新書)」、「うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ(講談社+α新書)(樋口恵子共著)」、「65歳からおとずれる 老人性うつの壁(毎日が発見)」など多数。

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